「ロシア通のキングメーカー」登場でトルコは欧米からさらに離れる
では、オアンの思想性はどんなものか。これを知るため、まずオアンの経歴などを簡単にまとめてみよう。
公式HPによると、オアンは1967年生まれ。シンクタンク研究員(後述)などを経て政治家に転身した。右派政党「国民運動党」に入党し、2011年には出身地アナトリア州ウードゥルの支部長になった。
国民運動党を便宜上「右派政党」と呼んだが、もっとはっきり言えば極右で、ネオナチとさえ呼ばれることもあった。冷戦時代から左派や少数民族クルド人への襲撃・暗殺をたびたび行ったためで、一時的に禁止されたこともある。
近年のオアンは「テロリズムは排除されなければならない」と述べてクルド人取り締まりを強調する一方、シリア難民の排除を求めてきた。シリア難民を300万人以上抱えるトルコは世界屈指の難民受け入れ国だが、これを進めたエルドアンへの批判は党派を超えて広がっており、オアンはその急先鋒の一人である。
オアンの思想性を一言で言い表すなら、トルコ・ナショナリストだ。現在のトルコ共和国だけでなく、遊牧民トルコ人が歴史的に移住していったカフカスから中央アジア一帯にかけての結びつきを重視する立場である。
一方、エルドアンも「強いトルコ」の再建を目指しており、この点ではオアンと大きな違いはないといえる。
エルドアンとの確執と連携
ところが、これまでオアンはエルドアンと一線を画してきた。
その転機は2015年の総選挙にあった。この選挙でエルドアン率いる公正発展党は過半数の議席を獲得するに至らず、国民運動党との閣外協力に踏み切った。指導部のこの決定に反対した者は国民運動党を除名され、そのなかにオアンもいたのだ。
今回の大統領選挙でオアンは5つの小さな極右政党の連合体「始祖連合」の統一候補として立候補していた。
こうした経緯にもかかわらずエルドアンと手を組むのは、政治家として「一番高く売れるタイミング」を逃さなかったということだろう。
大統領選挙第3位につけてキングメーカーになったオアンには、エルドアンだけでなくクルチダルオルもアプローチしていた。しかし、中道左派とみなされるクルチダルオルはオアンからみて、イデオロギー的な距離が大きい(シリア難民の排除に関してはクルチダルオルも賛成しているが)。
それだけでなく、クルチダルオルの提示した条件もオアンの要求を満たすものでなかった。クルチダルオルは閣僚ポストを約束してオアンの取り込みを図ったが、オアンは「副大統領にもなれる自分がなぜ大臣にならなければならないのか?」と述べて断ったといわれる。
だとすると、オアンは相当の野心家でもあり、エルドアンはかなり高いレベルのポストを約束したとみてよいだろう。
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