コラム

「ヨーロッパ屈指の汚職体質」ウクライナ──先進国の支援は有効活用されるか

2023年02月13日(月)14時45分
ベルギーを訪問したゼレンスキー大統領

EU首脳会議出席のためベルギーを訪問したゼレンスキー大統領(2月9日) Yves Herman-REUTERS

<汚職撲滅をアピールするゼレンスキー自身もスキャンダルと無縁ではない>

ロシアに対抗するため、先進各国はウクライナに支援しているが、そこには「浪費されるかも」という懸念がつきない。

スキャンダルで国防大臣が更迭

ゼレンスキー大統領のヨーロッパ歴訪の陰であまり報じられなかったが、ウクライナではその直前の2月5日、レズニコウ国防大臣が解任され、ブダノフ情報局長を後任にあてる人事が明らかになった。

これは政府の公式発表ではなく、ゼレンスキー大統領の側近アラカミア氏がSNSで発表したものだ。それによると、今月末にかけてロシアの大規模攻勢が予測されるなかでの「戦局をにらんだ人事」という。

しかし、それを真に受けることもできない。

解任されたレズニコウ前大臣は、ウクライナ軍が購入する装備や食糧などの水増し請求や架空請求などの疑惑の渦中にあったからだ。国防省を舞台にする汚職をめぐって、すでに副大臣などは解任されていた。

今回、レズニコウに代わって国防大臣に就任するブダノフは諜報機関の責任者で、要するに汚職を摘発する側でもある。

ヨーロッパ屈指の汚職体質

残念ながらというべきか、このスキャンダルは氷山の一角だ。

レズニコウ更迭と前後して、ウクライナ最大の国営ガス企業を舞台とした10億ドル相当の横領の嫌疑で、有力新興財閥(オリガルヒ)の一人コロモイスキー氏だけでなく、前エネルギー大臣も捜査対象になっている。

ソ連崩壊にともなって1991年に独立したウクライナでは、共産党体制の遺産もあり、もともと透明性が低く、汚職が蔓延している。

世界各国の透明性をランキング形式で発表しているトランスペアレンシー・インターナショナルによると、2021年のウクライナは180カ国中122位だった。これはアフリカのザンビア(117位)やガボン(124位)と大差ない水準だ。このランキングでウクライナを下回ったヨーロッパの国はロシア(136位)だけだった。

なぜこのタイミングか

今回、突然のように汚職摘発が相次ぐことには、政治的な背景がある。応用政治調査センター(Penta)のフェセンコ博士は汚職の摘発をゼレンスキー大統領にとって「一石二鳥」と表現する。

第一に、ソ連時代からの汚職にうんざりしているウクライナ国民向けのアピールだ。もともと有名コメディアン・俳優のゼレンスキーが2019年大統領選挙で当選した背景には、汚職にまみれたエリートに対する反感と、政治経験がほぼゼロであることがゼレンスキーに有利に作用したことがあった。

第二に、「汚職撲滅に熱心」というメッセージを発することで、透明性の向上などを条件とするEU加盟のハードルを引き下げることだ。今回の国防大臣交代がゼレンスキーのヨーロッパ歴訪の直前に行われたことは、これを示唆する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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