コラム

「ヨーロッパ屈指の汚職体質」ウクライナ──先進国の支援は有効活用されるか

2023年02月13日(月)14時45分

ただし、この「一石二鳥」がどこまで意味のある対策に結びつくかは疑問だ。汚職撲滅をアピールするゼレンスキー自身がスキャンダルと無縁ではないからだ。

2021年10月に一斉に公開された、世界の大物による税回避とマネーロンダリングの実情を暴いた「パンドラ文書」には、プーチンらロシア政府高官とともにゼレンスキーの名もあった。ゼレンスキーの広報官はかつて、この問題に対するイギリスメディアの質問に「答えるつもりはない」と返答している。

今回、国防大臣を事実上更迭されたレズニコウに関しても、厳格な調査や法的手続きが機能するかは怪しい。

国防大臣交代の直後、ゼレンスキーの側近の一人でロシアとの交渉を担当するポドリアック氏はTVで「西側各国の要人たちとレズニコウの'素晴らしい'個人的な関係は、ウクライナへの軍事支援を支える」と述べ、国防大臣以外のポストに就任する可能性を示唆した。これは要するに、国防省をめぐる汚職を実質的にうやむやにすることと解釈できる。

支援は活用されるのか

ここで問題になるのは、先進国の支援が無駄にならないかという懸念だ。

アメリカのバイデン政権は昨年からすでに100億ドル以上をウクライナに支援してきた。それよりかなり少ないものの、日本政府もすでに合計1000億円程度を提供している。

一般的に、膨大な資金とりわけ返済義務のない無償援助が海外から流入することが、国や文化に関係なく、汚職の広がるきっかけになることは珍しくない。通常の開発協力でも相手国の汚職によって期待された効果があがらないこともよくある。

だからこそ、アフリカなどの貧困国に対して欧米各国は「汚職対策の不備」を理由に支援を凍結することさえある。また、中国は2010年代末からアフリカなどでのインフラ建設のための資金協力にブレーキがかかったが、そこには中国自身の景気減速に加えて、やはりアフリカ側の汚職や過剰要求にクギを刺す目的もあったとみられる。

ところが、アフリカ各国と同じ程度の透明性と評価されていても、ウクライナに関して先進国は総じて物分かりがいい。少なくとも、先進国からこの点に関する改善要求はほとんど聞こえてこない。

火の手が上がってもザルに水は注がない

「戦時だから仕方ない」という意見もあるだろう。

しかし、「戦時」を錦の御旗のように掲げるのは冷静な判断を妨げやすい。

むしろ、たとえ戦時でも、少なくとも自国が直接的な被害に合わないなら、無制限に協力しないのが国際政治の定石だ。それを体現してきたのは、ウクライナ支援の先頭に立つアメリカに他ならない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、0.25%の利下げ決定 昨年12月以来6会

ビジネス

FRB独立性侵害なら「深刻な影響」、独連銀総裁が警

ワールド

核問題巡り平行線、イランと欧州3カ国が外相協議

ビジネス

ユーチューブ、メディア収益でディズニー超えへ AI
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story