コラム

米中間選挙後にバイデン政権がウクライナ支援を縮小しかねない理由

2022年11月14日(月)16時30分

また、中間選挙目前の11月初旬には、共和党のマージュリー・テイラー・グリーン下院議員(トランプ前大統領の支援を受けている)が「共和党のもとではウクライナに1ペニーも渡さない」とまで踏み込んだ。1ペニーは1セントの意味で、日本風にいうと「びた一文やらない」といったに等しい。

ウクライナの国境よりアメリカの国境

こうした「アメリカ第一」に沿った論調は民主党からだけでなく、一部の共和党議員からも批判を招いてきた。

それでもこうした主張が飛び出す背景には、バイデン政権の経済対策が期待ほどでなかったという不満に加えて、「ウクライナの国境よりアメリカの国境に目を向けるべきだ」という批判がある。

アメリカ南部のメキシコとの国境には昨年から、それまで以上に中南米からの難民が押し寄せていて、その数は昨年だけで173万人にのぼった。

今年に入って難民はさらに増えているが、これは入国希望者の「トランプ政権時代の厳しい移民・難民規制がバイデン政権下で緩められた」という期待を高めさせたからとみられている。

そのため春頃から、とりわけ不法移民に直面しやすい南部のテキサスやアリゾナの知事は北部のニューヨークなどに、数万人の難民をバスで送りつけてきた。ニューヨークやシカゴ、ワシントンD.C.の知事や市長は民主党系で、移民・難民に寛容な立場だ。

つまり、難民のバス移送は「保護したいなら、そう主張する者がやればいい」というメッセージだったといえる。

バイデン政権に批判的な共和党議員のなかには、こうしたバス移送を支持する一方で、民主党がアメリカの危機を放置してウクライナにばかりかまけているという主張もある。

だからこそ、ウクライナのツィンツァーゼ前副首相が米中間選挙を前にしたインタビューで「我々が党派争いの犠牲になるのを恐れている」と述べたことは不思議でない。

露骨に「アメリカ第一」にのっとった主張を展開する議員・支持者は、共和党のなかで必ずしも多数派ではない。しかし、マッカーシーもグリーンも再選を果たすなど、火種は残っている。

中間選挙の結果は、バイデン政権がこれまでのウクライナ支援を見直さざるを得ない転機になり得るのであり、今後インフレの加速などでさらにアメリカ経済にブレーキがかかり、生活への不満が高まった場合、この見直し圧力はさらに強まるといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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