コラム

プーチンとの蜜月を否定する欧米の「友人」たち──フランス大統領選への余波

2022年04月21日(木)14時45分
ルペンとプーチン

モスクワでプーチン大統領と会談したルペン国民連合党首(2017年3月24日) Sputnik/Mikhail Klimentyev/Kremlin via REUTERS

<「ウクライナ侵攻でロシアへの見方は変わった」――決選投票を前に、「国民連合」党首マリーヌ・ルペンはプーチンとの深い関係をなかったことにしようと必死>


・移民、フェミニスト、LGBTに厳しいプーチンはこれまで、トランプをはじめ欧米の極右政治家と密接な関係を築いてきた。

・しかし、ウクライナ侵攻をきっかけに反ロシア感情が各地で高まるなか、「友人」の多くはプーチンとの蜜月をなかったことにしようと必死である。

・フランス大統領選挙の有力候補ルペンはその一人で、プーチンとの深い関係はフランス初の極右大統領の誕生を阻む一因となり得る。

欧米の「友人」たちはプーチンとの蜜月を否定するのに苦慮している。大統領選挙の最中にあるフランスでも、「反移民」を掲げる極右ルペン候補は、これまでのロシアとの協力をなかったことにしようと必死である。

「ロシアへの見方は変わった」

4月10日に行われたフランス大統領選挙の第1回投票で、「国民連合」党首マリーヌ・ルペン候補は、現職マクロン大統領(得票率27.8%)に次ぐ第2位(同23.1%)につけた。フランス大統領選挙は第1回投票で得票数上位2名が決選投票に進むため、ルペンは24日に行われる決選投票でマクロンとの勝負に臨む。

国民連合は1972年に「反移民」を掲げて登場した極右政党の草分けだ(かつての党名は国民戦線)。その党首が第2位につけたことから、極右大統領の誕生を危惧する声もあるが、ルペンを待ち受ける道は険しい。

国民連合の党首はこれまで2002年、2017年の二度にわたって第2回投票に進んだが、いずれも敗れた。その度に、第1回投票で3位以下になった候補の支持者が結束して対立候補を支持したからだ。

それだけフランスでも極右大統領の誕生への警戒感は強いといえるわけだが、特に今回の選挙の場合、プーチンとのこれまでの「蜜月」がルペンの前に大きく立ちはだかるとみられる。

ルペンはもともとプーチンと近い立場にある。実際、国民連合は2014年、ロシア政府から1,000万ドル相当の選挙資金を借りていたことが発覚した。

また、2017年の大統領選挙の際には、「この数年間に新たな世界が誕生した。それはプーチンの世界であり、トランプの世界だ...自分はこれらの偉大な国々と目標を共有して協力していく」と述べ、トランプとともにプーチンも賞賛した。

こうした密接な関係は、ロシアによるウクライナ侵攻の後、しばしば批判の対象になっている。そのためルペンは「ウクライナ侵攻でロシアへの見方は変わった」と強調し、「ロシアと関係を強化しようとしたのは中国と連携させないため」と釈明に必死だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story