コラム

こけおどしの「民主主義同盟」──反中世論に傾いた米外交の危うさ

2022年01月05日(水)15時15分
民主主義サミットに臨むバイデン大統領

リモートで開催された民主主義サミットに臨むバイデン大統領(2021年12月9日) Leah Millis-REUTERS


・民主主義サミットは、人権を尊重しているとも民主的とも言えない国も多数参加したもので、頭数優先だったといえる。

・その多くの国は米中に二股をかけており、「民主主義サミット参加=反中」という理解は単純すぎる。

・そのうえ、民主主義サミットに参加したことで「アメリカのお墨付きを得た」これらの国では、これまで以上に人権状況が悪化する恐れすらある。

中国との差別化を意識して人権や民主主義を強調するほど、アメリカはドツボにハマる。いくら国際的に人権を力説しても、中身のほとんどない'民主主義同盟'しかできないからだ。それは国内の反中世論を満足させたとしても、実行力ある中国包囲網からはほど遠い。

人権外交の限界

北京五輪に日本も政府関係者を送らないことになったが、岸田首相は「外交的ボイコット」の用語を極力用いず、「政府関係者は派遣しない」といいながらも現職議員でもある橋本聖子JOC会長の出席を認めている。

こうしたグレーな対応はいつものことだが、今回に関してはやむを得ないかもしれない。アメリカ主導の人権外交には勝算が薄いからだ。

大前提として、香港や新疆ウイグル自治区での人権状況が深刻なことは疑いない。

その一方で、「人権や民主主義を尊重する国の包囲網で中国を封じ込める」というアイデアはアメリカでも日本でも反中世論を満足させるものだろうが、実質的な効果をほとんど期待できない。

その最大の理由は、そもそも「人権や民主主義を尊重する国」が結束したところで、世界の多数派にはなれないことだ。

名は体を表すか

アメリカのシンクタンク、フリーダム・ハウスは毎年、世界各国を「自由な国」、「部分的に自由な国」、「自由でない国」に分類しているが、その最新版によると「自由な国」は世界全体で82カ国だった。これは国連加盟国(193)の半分にも満たない。

その一方で、12月9〜10日にかけて開催された民主主義サミットには、アメリカの呼びかけに応じて112カ国が参加した。これだけみれば、世界の多数派が'民主主義同盟'に与したかに映る。

しかし、その内訳をみると、人権を尊重しているとも民主的とも言いにくい国が数多く参加していることがわかる。

例えば、民主主義サミット参加国にはフリーダムハウスの評価で「部分的に自由な国」と評価されるハンガリー、インド、フィリピン、ケニア、コロンビア、ナイジェリアなども含まれた。その多くでは選挙が行われていても、ジャーナリストの拘束、治安部隊によるデモの強制排除、外国人ヘイトの扇動、LGBTの迫害、児童労働といった人権侵害が目立つ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国財政相会見、刺激策の「規模」不明 市場の期待は

ビジネス

情報BOX:中国、景気底上げへ積極財政出動 財政相

ビジネス

中国9月CPI減速、PPIは半年ぶり下落率 デフレ

ワールド

イスラエル、イラン攻撃目標を軍・エネ施設に絞り込み
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思っていたが......
  • 2
    冷たすぎる受け答えに取材者も困惑...アン・ハサウェイ、批判殺到したインタビューを反省し謝罪
  • 3
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリメント「3つの神話」の噓を暴く
  • 4
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 5
    性的人身売買で逮捕のショーン・コムズ...ジャスティ…
  • 6
    アルツハイマー病治療に新たな可能性...抗がん剤投与…
  • 7
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子は「別々に活動」?...久し…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 10
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story