最新記事

米中関係

新たなフェーズに入った米中関係

The U.S.-China Relationship Has Entered a New Phase

2021年12月7日(火)21時27分
ロバート・マニング(大西洋協議会上級研究員)
北京冬季五輪

12月6日にアメリカは北京冬季五輪(写真)の「外交的ボイコット」を発表したが、中国側には先の首脳会談で伝達済みだったといわれる Thomas Suen-REUTERS

<バイデンと習近平によるオンライン首脳会談は、両国関係が「否認」と「怒り」を経て「取引」の段階に移行したことのあらわれだった>

アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席が11月半ばに行ったオンラインの首脳会談に対しては、単に写真撮影用のパフォーマンスだったという見方が強い。ニューヨーク・タイムズは「ただの社交辞令」だったと呼んだ。だがそうではない。あの会談は、米中関係が急速に悪化して紛争に発展するのを阻止するために、双方が何カ月も前から準備を重ねた真剣な取り組みだった。

米中両国はこの首脳会談で、制御不能な衝突に発展するおそれがある対立に歯止めをかけ、互いに歩み寄りの余地がないか模索する試みだった。アメリカと中国は根本的に相容れない存在なのかどうか、世界は答えを必要としている。

アメリカの対中政策は、心理学で言うところの「悲しみの5段階」を経てきている。米政府は長い間、第1段階の「否認」の状態にあった。バラク・オバマ元大統領時代以降、中国はいずれ改革を実現してアメリカのような国になる――あるいは少なくともアメリカのやり方に従うようになるだろうという考えを持ち続けてきた。そしてドナルド・トランプ前大統領が就任すると、次の「怒り」の段階に突入した。中国を悪者扱いし、また中国がアメリカを利用して台頭を果たしたと憤り、アメリカとして中国に対抗するか、あるいはなんとかして中国の勢いを押し戻さなければという思いに突き動かされた。

「ガードレール」で関係悪化に歯止めを

そしてバイデンと習近平による首脳会談は、第3段階の「取引」に移行するための努力のあらわれだった。米中双方の指導者が、両国関係が制御不能なまでに悪化することを恐れ、バイデンが言うところの「共通のガードレール(防護柵)」をつくって「両国の競争が衝突につながらないように」する必要があると感じていた。ささやかな安定と予測可能性を望み、両国関係のさらなる悪化に歯止めをかけようとしたのだ。

だが、そんなことが可能なのだろうか。首脳会談の冒頭で、両国の指導者は改めて相手に対する不満を表明し、双方の溝の深さが露呈した。バイデンは中国の人権問題、新疆ウイグル自治区や香港での弾圧、南シナ海と東シナ海への強引な進出や台湾への威嚇行動、さらには不公正な貿易慣行に不満を示した。一方の習近平は、中国の「内政問題」に対するアメリカからの圧力や、中国政府の積極行動に対する米軍の反応に不満を表明した。希望があるとすればそれは、(自己保存の)必要が発明の母となって、2つの核保有大国が一時的であれ妥協の余地を見出すことだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、一部帰化者の市民権剥奪強化へ=報道

ワールド

豪ボンダイビーチ銃撃、容疑者親子の軍事訓練示す証拠

ビジネス

英BP、豪ウッドサイドCEOを次期トップに任命 現

ワールド

アルゼンチンの長期外貨建て格付け「CCC+」に引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中