コラム

こけおどしの「民主主義同盟」──反中世論に傾いた米外交の危うさ

2022年01月05日(水)15時15分

これらのうち、例えば西アフリカのナイジェリアでは警察の対凶悪犯特殊部隊(SARS)が「テロ対策」や「暴動対策」の名の下に数多くの民間人を超法規的に殺傷しており、2017年から'#EndSARS' を掲げる抗議デモが頻繁に発生している。治安機関による暴力を受けて、バイデン政権自身、ナイジェリアから要請のあった武装ヘリAH-1コブラ12機の提供を停止した経緯がある。

民主主義サミットにはそればかりか、フリーダムハウスに「自由でない」と評価されるイラク、アンゴラ、コンゴ民主共和国さえも堂々と参加していた。民主主義サミットといいながらも、名が体を表すとは限らない。

パフォーマンス以上のものではない

さらに目を引くのは、民主主義サミットに参加した国に、伝統的に欧米と友好的な外交関係をもつ国が多いことは確かだが、それらが「反中」とは限らないことだ。

例えば、ハンガリーでは極右的なオルバン首相が外国人ヘイトを煽り、報道規制を強めてきた一方、近年では中国との緊密さが目立つ。

フィリピンのドゥテルテ大統領、ケニアのケニヤッタ大統領などもまた、時には中国と外交的な衝突を演じながらも、投資・貿易、ワクチンなどで中国への依存度は大きい。それだけでなく、これらの首脳はしばしば、国内の人権問題に対するアメリカなど欧米諸国の「内政干渉」を批判してきた。

つまり、民主主義サミットに参加したからといって「親米=反中」とは限らず、それはむしろ米中に二股をかけた結果といえる。

民主主義サミットに参加した国ですらそうなのだから、「中国ぬきのサプライチェーン」というアメリカの構想につき合う意思をもつ国は世界にほとんどないとみた方がよい。アメリカや日本との関係も深いシンガポールのリー・シェンロン首相(しかし民主主義サミットには出席していない)はアメリカメディアに「米中どちらかを選ぶのはとても難しい(つまりほぼ不可能)」と率直に述べている。

だとすると、人権外交には外交的パフォーマンス以上の実質的な効果を期待できない。

そればかりか、民主主義サミットに参加した人権状況に問題のある国で、これまで以上に人権侵害が加速する恐れさえある。頭数を揃えることを重視した結果、バイデン政権が問題ある国の首脳も民主主義サミットに喜んで迎えたことで、これらの国の人権状況に暗黙の了解を与えることになりかねないからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

西欧の航空会社、中国他社より不利=エールフランスC

ビジネス

午前の日経平均は続伸し最高値、高市首相誕生への期待

ワールド

ブダペストでの米ロ会談、ハンガリーとの良好な関係背

ワールド

トランプ氏、中国との公正な貿易協定に期待 首脳会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story