コラム

年金アジアNo.1のシンガポール――「自助努力」重視でも年金は拡充させる

2019年11月13日(水)18時10分

シンガポールのシンボル、マーライオンとビジネス街 ti1993-iStock

<国家管理の下で網羅性の高い公的サービスを実現するシンガポール。「自分のことは自分で」という発想を基本にしながら、国際的に高い評価を受ける年金制度とは>

年金制度に関する国際的な評価で上位10カ国にアジアから唯一ランクインしたのはシンガポールだった。年金制度の充実には、シンガポールの国家としての意志を感じさせる。

アジアNo.1の年金先進国

コンサルティング企業マーサーの評価によると、年金制度で日本は37カ国中31位だった。

この評価は「十分性」、「持続性」、「健全性」の3つの観点に基づくが、日本の場合はとりわけ「持続性」が大きなマイナス要因になった。人口も経済も右肩上がりの時代に導入された、現役世代が納める保険料を受給世代に回す「賦課方式」がいまだに続く現状をみれば、さもありなんといったところだろう。

Mutsuji191113_1.jpg

これと対象的に、マーサーのランキング上位10カ国には、社会保障が充実したデンマークなど北欧諸国が目立つ。ところが、そのなかにシンガポールがアジアの国として唯一ランクイン(7位)していることは目を引く。6位だったノルウェーと総合評価での差はわずかで、将来的にシンガポールが逆転する可能性もある。

シンガポールの年金制度とは

それでは、アジアNo.1シンガポールの年金制度とはどのようなものか。

年金に限らず、シンガポールの社会福祉は「自助努力」を基本にする。自分の面倒は自分でみるべきで、国家による扶助は最後の手段、というのだ。

そのため、年金でも日本の賦課方式ではなく、受給者自身が現役時代に納めた保険料を基本にする「積立方式」が採用されている。積立方式が「持続性」での高い評価につながったことは疑いない。

ただし、シンガポールの年金制度はそれだけで高評価を得たわけではない。

どんな制度も万能ではなく、社会情勢の変化に適応させることが欠かせない。シンガポールもやはり高齢化や少子化に直面しており、これらの変化に対応した改革が続けられてきたことが、結果的に全体としての高評価につながったとみられる。

例えば、積立方式の場合、現役時代の所得が低く、保険料を十分積み立てられなかった人はほとんど受給できず、老後格差がさらに大きくなる可能性もある。さらに、シンガポールでは退職後20年を想定した制度設計のため、それ以上長生きすれば積立金が枯渇することもある。

そのため、シンガポール政府は2009年、年金の支給額を抑えながら、受給資格が生涯失われない新たなプランを導入した。受給者は従来の制度とどちらを適用してもらえるかを選択できる。

これは積立方式の欠陥をカバーする改革といえるが、この他にも年金支給額の増額、退職時に一時金の付与、定年年齢引上げなども検討されている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 米大統領選

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story