コラム

シリアIS占領地消滅でアルカイダは復活するか──3つの不吉な予兆

2019年03月25日(月)11時24分

シリア、バグズでの戦闘(2019年3月18日) REUTERS


・ISが勢力を衰えるのと入れ違いのように、アルカイダに復調の兆しがある

・アメリカなど有志連合が支援するクルド人勢力がIS占領地を奪還したことは、アルカイダからみても朗報である

・カリスマ的リーダーの登場、サウジアラビアの方針転換、欧米諸国の失点が、アルカイダにとっての追い風になっている

ISが占領地を失い続ける状況を各国メディアは「朗報」として伝えているが、残念ながらこれで喜んでいるのはアルカイダも同様である。ISの退潮と入れ違いのように、しばらく目立たなかったアルカイダが勢力を盛り返す兆候が目につき始めている。

蘇るアルカイダ

シリア東部のバグズがアメリカなど有志連合の支援するシリア民主軍(SDF)によって奪還され、これによってイラクに続き「イスラーム国」(IS)は占領地をほぼ失い、シリア内戦は終結に大きく近づいた。

その一方で、これによってイスラーム過激派のテロが根絶されるとは言えない。IS戦闘員が「次の戦場」を求めて各地に飛散しているだけでなく、イスラーム過激派はISだけではないからだ。

とりわけ注意すべきは、ISが勢力を衰えさせるのと入れ違いに、アルカイダ系組織の活動が活発化していることだ。アフリカのマリでは3月23日、アルカイダ系組織がマリ軍兵士23名を一週間で殺害したと発表。イエメンやソマリアなどでも同様で、アメリカが撤退を急ぐアフガニスタンに関しても、国連の最新報告は「アルカイダにとっての天国」と表現している。

アルカイダとIS

多くの国と同じく、アルカイダにとっても、ISが勢力を衰えさせたことは朗報である。イスラーム過激派で共通するとはいえ、もともとISはアルカイダから分裂し、それ以来対立してきたからだ。

アルカイダとISの対立は、路線の違いによる。1998年にビン・ラディンらが「グローバル・ジハード宣言」を出して以来、アルカイダの本領はアメリカやその同盟国に対する神出鬼没のテロ攻撃にあった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story