コラム

「世界最大のごみ捨て場」中国の終焉──日本のプラスチックごみはどこへいく

2018年07月26日(木)13時30分

中国、大連のごみ処分場で使えるものを探す女性とエサを探すカモメ(2015年) REUTERS


・プラスチック製ストロー廃止など、プラスチックごみを削減する試みは各国で進んでいる

・そこには環境保護の意識だけでなく、プラスチックごみの「輸入」を中国が禁じたことへの警戒感をみてとれる

・日本ではこの動きへの反応が鈍いが、プラスチックごみの削減はグローバルな環境保護だけでなく、国土保全の観点からも緊急の課題である

7月9日、スターバックスが全世界の店舗でプラスチック製ストローの使用をやめると発表。これと並行して、イギリスでは4月、アメリカのシアトル市では7月に、プラスチック製ストロー廃止の方針が打ち出された。

これに対して、日本の政府や企業の反応は全体的に鈍い。

各国でプラスチック製ストロー廃止が進む理由としては、海洋汚染の防止といった環境保護が取り上げられやすい。しかし、この問題は、プラスチックごみを処分できる土地がもはやなくなりつつあることにも関連する。ストローにとどまらず、プラごみの問題がいまだに重視されない日本の状況は「最後の始末まで考える」という意識や戦略性の欠如を物語る。

世界のごみ捨て場

これまで世界では、とりわけ豊かな国が、環境保護の美辞麗句とは裏腹に、貧しい国にごみを持ち出してきた

環境規制の厳しい先進国では、ごみ処分にともなうコストも高くなりやすい。これは安価にごみを引き取り、規制の緩い開発途上国に持ち出して処分する「ごみの輸出」を促す土壌になってきた。

WS000257.JPG

なかでもプラスチックは、多くの素材以上にリサイクルのコストが高くなりやすい。そのため、世界で回収されたプラスチックごみの14パーセントしかリサイクルされていない。日本の場合、慶応義塾大学の大久保敏弘教授らのチームによると、プラごみだけで年間500億円分以上が輸出されている。

WS000258.JPG

リサイクルされず、輸出されたプラごみの多くは、その他のごみと同じく、最終的に開発途上国で投棄されることになる。開発途上国の郊外や貧困層の多く暮らす地域では、海外から運び込まれたごみがうず高く積み上がっている光景や、そのなかからまだ使えそうなものを拾い集める人々の姿が珍しくない。

これら世界のごみの多くを引き受けてきたのが中国だ。

国際再生資源連盟によると、2016年段階で中国に持ち込まれたプラごみは730万トンに及び、これは世界全体の約56パーセントにのぼる。

WS000259.JPG

WS000260.JPG

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story