コラム

イランとイスラエルの「ミサイル応酬」ー米国を引っぱり出したいイスラエルの焦点は「米国防長官の去就」

2018年05月11日(金)17時00分

1979年までイランを支配した皇帝(シャー)は米国と同盟関係にあり、イスラエルとも国交を結んでいました。しかし、独裁的な皇帝支配に対し、1979年にイスラーム革命が発生。これによって生まれたイランの現体制は、それまでの反動で米国やイスラエルへの敵意を隠さず、レバノンの反イスラエル組織ヒズボラなどを支援してきました。また、イランによる核開発計画は、米国とともにイスラエルを念頭に置いたものだったとみられます。

サウジアラビアやエジプトなどスンニ派諸国が実質的に脅威でなくなりつつある現在、イスラエルにとってイランは最も警戒すべき相手なのです。そのため、米国トランプ政権による2015年のイラン核合意からの離脱を、イスラエル政府は「正しい選択」と評価しています。

米国は動くか

この背景のもと、冒頭に述べたように、8日にイスラエルはイランを攻撃。10日の「イランからの攻撃」がイスラエルによる「自作自演」かは定かでないものの、イスラエルが米国の直接行動を望み、イラン攻撃に引き込みたいことは確かです。

ただし、トランプ政権もイランを敵視しているものの、実際の行動を起こす可能性は、必ずしも大きくありません

1949年のイスラエル建国以来、米国は一貫して同国を支援してきました。しかし、イスラエルが軍事大国化した1970年代以降、米国はしばしばイスラエルの暴走を止める立場に立ってきました。

1982年にイスラエル軍は、レバノンの首都ベイルートに進撃。パレスチナ独立を目指し、これを占領するイスラエルへの武装闘争を行っていたパレスチナ解放機構(PLO)の本部を陥落寸前にまで追い込みました。周辺のイスラーム諸国が実質的にこれを放置するなか、最終的に仲介のために割って入ったのは、PLOを「テロ組織」と呼んでいた米国でした。

この際、米国はイスラエルに引きずられて国際的な評判を落とすことを恐れて仲裁に乗り出しました。つまり、米国にとってイスラエルは中東で最も重要なパートナーですが、イスラエルが米国を巻き込もうとすることへの警戒も根強くあるのです。

トランプ政権にとってのリスク

トランプ政権の場合、歴代政権と比べても「イスラエル支持、イラン敵視」は鮮明です。イラン核合意の破棄は、その象徴です。

そのうえ、イランとの大規模な軍事衝突になれば、トランプ氏の支持基盤である兵器メーカーにとって朗報であるばかりか、緊張の高まりによって原油価格がさらに高騰すれば、米国の石油産業にとっても悪い話ではありません。

とはいえ、イスラエルに付き合って軍事行動を起こすことには、国際的な評価だけでなく、大きなリスクがともないます。第一に、6月初旬までに開催予定の米朝首脳会談を前に、確たる証拠や国連決議もないままの軍事攻撃を北朝鮮に見せつけることは、逆に北朝鮮の米国に対する不信感を増幅させかねません。

第二に、イランを攻撃すれば、同国を支援するロシアとの関係を、これまでになく悪化させます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story