コラム

トランプ-金正恩会談に期待できないこと、できること──「戦略的共存」への転換点になるか

2018年03月10日(土)19時00分

それでも金正恩は核を手放さない Damir Sagolj-REUTERS

<記事のポイント>



・北朝鮮との会談は米国にとっても「渡りに船」だった
・会談で期待される成果は米朝がお互いに都合の悪いことを「みてみぬふり」をできるようになること
・「不安要素のある国」とでも、「自分に実際に危害を加えない」という共通認識がお互いに成立すれば、最低限の付き合いで並び立つことができる
・お互いに「忍耐」しあう「戦略的共存」は、全体の安全に資する

3月9日、韓国政府は「金正恩総書記がトランプ大統領との会談を提案したこと」と「トランプ大統領が非核化実現のために5月までに会談を行うこと」を相次いで発表。北朝鮮情勢は大きな転機をむかえています。

以前から述べているように、米朝会談が実現しても、「北朝鮮の核廃絶」はほぼ期待できません。しかし、今回の会談には、少なくとも高まった緊張を和らげる効果を期待できます。その緊張緩和を少しでも続けるなら、トランプ政権はオバマ前大統領の「戦略的忍耐」に近いものに回帰せざるを得ないとみられます。

ただし、オバマ政権の時代は米国の一方的な「忍耐」でしたが、もし米朝協議で(根本的な解決は無理でも)緊張緩和への道が開くなら、北朝鮮側も「忍耐」を余儀なくされます。それは「戦略的共存」とも呼べる状態です。

米国にとっての「渡りに船」

韓国政府が平昌五輪をきっかけに働きかけを続けた米朝会談に、北朝鮮側が徐々に応じる姿勢をみせてきたことに、トランプ大統領や日本政府は「制裁の効果によるもの」と自らの成果を誇示してきました。

北朝鮮への制裁に全く効果がなかったわけではありません。しかし、ここで重要なことは、制裁を加えてきた側にも、もはや打つ手はほとんど残されていなかったことです。

2017年7月に成立した包括的な経済制裁の導入により、これ以上の禁輸措置には限界がありました。経済制裁は一種の「諸刃の剣」で、そのリスクの一つには「最後から二番目の選択肢」であることがあげられます。つまり、それを実行して期待された成果が得られなかった場合、あとは基本的に軍事行動しか残らなくなりますが、それは制裁を行う側にとっても大きなリスクになります。既に核兵器を備えている北朝鮮が相手であれば、なおさらです。

トランプ大統領は昨年4月シリアへ突然ミサイル攻撃を行い、「大量破壊兵器を使えばこうなる」と北朝鮮に警告。北朝鮮ばりの「瀬戸際外交」を展開するなか、米国が北朝鮮への制裁や圧力を矢継ぎ早に強めることは、北朝鮮と一緒になって緊張をエスカレートさせるものとなっていました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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