コラム

アサド政権によるクルド人支援──「シリアでの完全勝利」に近づくロシア、手も足も出ないアメリカ

2018年02月23日(金)19時30分

シリアとの国境に近いキリス県を進むトルコ軍の戦車(2018年1月31日) Osman Orsal-REUTERS

シリアのアサド政権は2月19日、クルド人勢力を支援するために同国北部アフリンへ部隊を派遣することを決定。これは先月、クルド人勢力を攻撃するためにアフリンへ侵攻したトルコ軍に対応するためでした。双方は既に散発的に衝突しており、これが本格化することも見込まれます。

クルド人は分離独立運動をシリアで抑圧されてきた歴史があります。その意味で、アサド政権によるクルド人勢力の支援は「奇跡的」であるばかりでなく、2011年から同国で続く戦闘が終結に向かう転機になり得ます。そしてその場合、ロシアが米国に対してシリアで「完全勝利」を収めるとみられます。

「オリーブの枝」作戦

「アサド政権によるクルド人支援」の重要性を知るには、まずトルコ軍の「オリーブの枝」作戦について押さえる必要があります。トルコ軍は1月、隣国シリアのアフリンに突如侵攻。この地は、クルド人が支配する土地です。

シリア、イラン、イラク、トルコなどに別れて暮らすクルド人は「国をもたない世界最大の少数民族」と呼ばれます。それぞれの国で分離独立を求めてきたものの、どの国でも抑圧されてきた歴史をもちます。シリアの場合、内戦の混乱のなか、反体制派組織シリア民主軍(SDF)の中核を占めるクルド人民防衛部隊(YPG)が実効支配するに至っていました。

今年1月14日、米国はアフリンを拠点とするSDFへの支援強化の方針を表明。名目は「IS対策」でしたが、「テロ支援国家」に指定するシリアのアサド政権を打倒するため、クルド人勢力を用いることを念頭においたものだったとみられます。

ところが、これに対してシリアだけでなく、トルコも強く反発。トルコ政府はトルコ国内で分離独立運動を続けてきたクルド労働者党(PKK)をテロ組織とみなしており、これと協力関係にあるとみられるYPGも同様にテロ組織と呼びます。そのため、シリアの「イスラーム国」(IS)掃討に目途が立ったこともあり、1月21日にトルコ軍はアフリンへの侵攻「オリーブの枝」作戦を開始したのです。

米国の「二股」

トルコのアフリン侵攻は、シリアだけでなく、米国にとっても頭痛の種となりました。

先述のように、米国はシリアのクルド人勢力を支援しています。米国は1979年からシリアを「テロ支援国家」に指定し、アサド政権と敵対してきました。そのため、シリア内戦を契機に米国は「国内の不満を解消し、内戦を終結させるためにはアサド退陣が不可欠」と強調し、クルド人主体のSDFを支援してきたのです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の人口、4年連続で減少 25年は14億0500

ビジネス

午前の日経平均は続落、一時800円超安 選挙情勢の

ワールド

印リライアンス10-12月利益が予想届かず、コスト

ワールド

原油先物横ばい、イラン抗議デモ沈静化で供給懸念後退
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story