コラム

ロヒンギャ問題解決のために河野外相のミャンマー訪問が評価できる5つの理由

2018年01月16日(火)20時30分

危機克服のスタートを前進させる

第二に、難民帰還を促すことで危機の克服を加速させようとしたことです。

2017年11月、ミャンマー政府とバングラデシュ政府はロヒンギャ難民の帰還に合意。60万人以上にのぼる難民受け入れの負担に不満を募らせるバングラデシュ政府の立場を、後ろ盾である中国やインドも支持するなか、ミャンマー政府は「バングラデシュからの不法移民」と呼び続けてきたロヒンギャの受け入れに同意せざるを得なかったのです。

ミャンマー政府がロヒンギャを「国民」と認めないことに変わりはなく、帰国しても再び迫害される懸念は払しょくされません。そのため、ロヒンギャ難民の間でも帰還に向けた動きは鈍く、合意そのものが実現しない恐れがあります。

とはいえ、バングラデシュからの帰還はロヒンギャ危機の終結に向けた重要な糸口であり、この糸が切れれば事態のさらなる悪化が懸念されます。その意味で、今回河野外相が難民帰還への支援を表明し、これを加速させようとしたことには、重要な意味を見出せます

危機の長期的な克服に向けて

第三に、これに関連して、難民帰還後の長期的な平和の定着に向けた道筋をつけられたことです。

先述のように、帰還したロヒンギャが安全・安定した生活を送れるかは未知数です。ロヒンギャ危機に関して、欧米諸国は個人の人権や暴力からの解放を最優先にする傾向があり、これはこれで重要な課題です。しかし、襲撃がなくなることだけでなく、衣食住といった最低限のニーズを満たせる生活再建も、危機の長期的な克服には必要です。ところが、この点にスポットをあてる国は必ずしも多くありません。

今回河野外相はスー・チー氏との間で、特に帰還後のロヒンギャ支援として女性の所得向上に向けた訓練などを約束しています。「紛争における弱者」になりやすい女性に特化した支援には、ロヒンギャ・コミュニティの安定にとっても重要な役割を果たすと期待されます。

日本と同様の立場の国にはインドがあげられ、同国も12月に仮設住宅の建設を含む2500万ドルの支援を約束しています。ロヒンギャ危機に関して日本とインドは立場的に近いことから、今後の協力の可能性も視野に入ってくるといえるでしょう。

空約束をゆるさない姿勢

第四に、ミャンマー政府が約束を守るかを日本側が確認できるようにしたことです。

日本政府は内政不干渉の原則を重視し、援助を提供しても相手国政府の独立性を重視する傾向があります。状況によっては援助を差し止めるなどの対応をとる欧米諸国と比較して、日本の姿勢は「奥ゆかしい」かもしれませんが、それは足元をみられることにもなりかねません。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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