大幅円安は経済停滞の象徴なのか?
もう10年以上も前の話なので、当時の惨状に対する記憶が薄れているのかもしれない。「円の世界で生きている」大半の現役世代の日本人にとって、経済のパイが増え、失業者が減って人手不足が問題になる今の経済状況は、はるかにマシである。金融緩和が徹底されたことでこうした状況が訪れ、円安によって状況は更に改善している。
主要先進国では日本だけが2012年までに経験した、行き過ぎた通貨高と長期停滞がもたらした「経済コスト」の大きさに比べれば、今起きている円安のコストは、比べようもないくらいに小さいようにみえる。
前向きな市場経済のダイナミズムが戻りつつある
更に、過去1年半の円安が進む中で、長年凍結していた企業による値上げ・賃上げという、当たり前の動きがようやく戻りつつある。2%インフレを安定的に実現するには「賃金上昇」を伴う好循環が必要だが、大幅な円安が後押した価格変動が、この春の30年ぶりの賃上げを後押しした。
これは、低インフレではあまり効かなかった価格シグナルが十分機能することを意味し、そして前向きな市場経済のダイナミズムが戻りつつあることでもある。円安は短期的に経済成長を高めるだけではなく、長期的な経済正常化を後押しする効果もある、ということだ。
過去1年半余りの大幅な円安は経済停滞の象徴というよりは、むしろ将来の日本経済復調を示唆するシグナルと位置付けられる、と筆者は考えている。
なお、1ドル150円台の大台に入り、円安はもう止まらないとの見方もメディアでは散見されている。ただ、2024年には日本銀行が、2%インフレが安定的に実現したと判断に至り現行の金融緩和を緩めるなら、現在の大幅な円安は自ずと続かないだろう。その時まで、「異例の追い風」といえる円安のメリットを最大限享受するのが望ましいのではないか。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)
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