コラム

大幅円安は経済停滞の象徴なのか?

2023年11月14日(火)20時00分
岸田首相

過去1年半の円安が進む中で、長年凍結していた企業による値上げ・賃上げという、当たり前の動きがようやく戻りつつある...... Eugene Hoshiko/REUTERS

<1ドル150円台の大台に入り、円安はもう止まらないとの見方もメディアでは散見されているが......>

為替市場では、10月中旬から1ドル150円付近の円安水準での推移が続いている。1年半に渡り円安が続いているため、円安の負の側面が経済メディアでは依然としてクローズアップされることが多い。

ただ、23年の日本株(TOPIX)は年初来リターンが+23%(11月10日時点)で、米国株(S&P500 +15.0%)を上回っている。円安ドル高が進むと、米国株対比で日本株がアウトパフォームする関係は、2022年から23年11月までほとんど変わっていない。円安でも輸出が以前ほど伸びなくなっているが、円安が企業の売上・利益を押し上げる効果が大きい。

円安が食料品価格上昇を後押しするなど、家計の購買力を減らすなど負の効果はある。それでも、インフレ率が十分高まっていない状況では、通貨安は日本経済全体にとってプラスの効果がより大きいだろう。

また今年の円安は、米国の金利上昇で説明できる部分が大きく、22年よりも円安のペースは緩やかで、ドル円のボラティリティは昨年よりかなり小さい。日本銀行が長期金利の変動を許容した事で、「日本国債売り」の投機的な思惑が和らいだ。米国金利上昇に沿った緩やかな円安であれば、当局も大きな問題とは認識しないのではないか。

円安は止まらないのではと不安かもしれないが

今起きている円安は、いわゆる購買力平価との乖離率という物差しでみると、1970年代以来の大幅な円安である。海外への旅行や出張の場で日本人が体感する、「円安度合い(国際的な円の購買力の低下)」は、過去20年以上経験されていない。海外で活動する日本人にとって、円の国際的な購買力の減退を「日本経済の弱さ」として実感するのはやむを得ない。

また、1ドル150円台まで円安が進んだことで、金融市場の値動きに敏感な方は、円安は止まらないのではと不安がよぎるのもかもしれない。こうした方々にとっては、「通貨の価値」が国の経済力に直結するという感覚から、今起きている円安に漠然とした危機感すら覚えてしまうのだろう。

ただ、2012年まで日本経済の長期停滞やデフレが、金融緩和の不徹底と行き過ぎた通貨高によって起きていた事を思い出せばどうか。通貨価値が高すぎる状況では、縮小均衡に陥り経済のパイが全く増えない。十分な雇用が生み出されない状況では、ブラック企業が当たり前になり、新卒者の就業状況は悲惨だった。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

韓国製造業PMI、2月は3カ月連続拡大 生産が好調

ビジネス

豪中銀、3月利上げあり得る 総裁「毎回ライブ会合」

ビジネス

インタビュー:円債投資には緩急、1月の金利急騰で超

ビジネス

米国経済、イラン戦争で不確実性高まる エコノミスト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 5
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 8
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story