コラム

自民党総裁選の行方:安易な増税で年金制度は揺らぐ

2021年09月22日(水)17時08分

高市氏:日銀が雇用最大化に対応する枠組みが望ましい

一方、高市氏は、金融政策に責任を持つ日銀に関して「(雇用を)もっとしっかり見て欲しい」と述べた。周知のように米国のFRB(連邦準備理事会)には、雇用の最大化と物価安定目標の2つの政策目標が課されている。これを念頭に、FRB同様に日銀が雇用最大化に対応する枠組みが望ましい、と高市氏は考えているとみられる。トレードオフの関係にある2つの政策目標を追求することは、金融政策運営を難しくする側面がある。一方、緩和的な金融政策運営がこれまで米国の経済成長を高めた、という大きな成果があったと筆者は考えている。

首相候補となっている有力政治家から、経済成長に直結する可能性を秘める政策枠組みの変更につながる発言がなされたと位置付けられる。もちろん功罪含めて様々な議論はあり得るが、自民党総裁選という機会で建設的な政策論争が行われていることは、今後の日本経済の先行きを考える上でポジティブな動きと評価できる。

そもそも、中央銀行の政策目標については、国民の代表である政治家がこれにしっかり関与するのは大きな責任である。これが軽視されてきたことは、官僚組織に経済政策を依存する問題の象徴であり、そして日本経済の長期停滞に最も大きな要因の一つだと筆者は考えている。

実際に、2010年頃まではごく一部の政治家しか、重要な経済問題に興味を示さなかった。当時と比較すれば、自民党においては骨太の政策議論が行われるようになっているわけだが、この政治情勢の変化もアベノミクスに伴う経済政策転換の成果と位置づけられるだろう。

岸田氏:財政政策に対する考え方は柔軟化

また、岸田氏は、消費税について「10年程度は増税を考えない」と明言した。事実上、自らの政権では消費増税は行わない考えを示したということだろう。岸田氏は、所得再分配を重視しているので、逆進性が強い消費増税は選択肢にはないとみられる。

その結果、経済活動に対して影響が大きい消費増税に対しては、菅首相同様に慎重な考えを持っているとは位置づけられるだろう。従来岸田氏は多くの自民党議員同様に財政健全化を重視していたとみられるが、財政政策に対する考え方は相応に柔軟化しているとみられる。

ただ、米国のバイデン政権が考えているように数年に亘り財政政策を拡張的に運営する、あるいは高市氏が提唱する2%インフレ目標と財政政策を紐づける政策枠組み、には賛同していないとみられる。このため、所得分配のために、早期に金融所得税などの増税が行われる可能性が高いと筆者は予想している。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story