黒澤明の傑作映画『生きる』のテーマは「生」でなく「組織と個」
渡辺課長の通夜の席でかつての同僚が、「あの複雑な組織の中では何一つ考える暇すらないんだから」とぼやくシーンがある。役所勤めとは何もしないこと。命令や指示に従うこと。考えないこと。その帰結として、組織はとてつもない失敗を犯す。
自分の死期を知った渡辺課長は、誰も手を付けなかった公園建設計画に最後の執念を燃やす。ヘスもアイヒマンも、自分がやっている仕事についてふと立ち止まって考えることができたなら、ホロコーストは史実と違う展開を迎えていたかもしれない。つまりヘスもアイヒマンも渡辺課長も、僕でありあなたでもある。
終始目を見開き続ける志村の演技は圧巻。アップのカットでは絶対に瞬きしない。他の俳優たちの演技も素晴らしい。解釈できるテーマは以前とは微妙に変わったけれど、傑作はやはり傑作だ。
『生きる』(1952年)
監督/黒澤明
出演/志村喬、日守新一、田中春男、千秋実
<本誌2023年2月21日号掲載>
『続・激突!カージャック』はスピルバーグの大傑作......なのに評価が低いのは? 2024.04.17
冤罪死刑を追ったドキュメンタリー映画『正義の行方』の続編を切望する理由 2024.03.19
ゾンビ映画の父ジョージ・A・ロメロは「ホラーで社会風刺」にも成功した 2024.02.28
原作者とモメる完璧主義者キューブリックの『シャイニング』は異質の怖さ 2024.02.17
シルベスター・スタローンの不器用さが『ロッキー』を完璧にした 2024.02.03
アラン・パーカー監督『バーディ』の強烈なラストシーンが僕たちを救う 2024.01.27