殺人者の逃避行でも、映画『悪人』に本当の悪人は1人もいない

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<映画『悪人』についてネットで検索すると「本当の悪人は誰か」といったフレーズが見られる。でも、本当の悪人は1人もいない。人は環境設定でいかようにも変わる。それがこの作品のテーマだ>
『怒り』について書いた前回の原稿の最後に、次回は『悪人』について書くと予告した。なぜならこの2つはペアだから。この2つを見れば、吉田修一と李相日監督が作品に込めた思いがよく分かるから。
解体業の仕事をしている祐一(妻夫木聡)は、出会い系サイトを通じて知り合った佳乃(満島ひかり)と逢瀬を重ねていた。しかし佳乃は寡黙な祐一をつまらない男と見下していて、金の関係と割り切っている。
その日も佳乃に呼び出された祐一は、唯一の趣味である愛車を駆って出向くが、待ち合わせ場所で佳乃は、本命として狙っていた増尾(岡田将生)を偶然見つける。祐一との約束を反故(ほご)にして増尾の車に乗り込む佳乃。祐一は増尾の車の後を追う。
ここまでが事件の発端。念を押しておくが、本作はサスペンスではない。だから犯人を隠す必要はない。やがて佳乃の遺体が見つかる。同じころ祐一は出会い系サイトで知り合ったばかりの光代(深津絵里)に接触する。
国道沿いにある大手紳士服店で働く光代は、国道沿いにある小中高に通ってきた。恋人はいない。毎日が同じ日常の繰り返し。
初めてのデートで、祐一は光代をホテルに誘う。戸惑うが応じる光代。しかし祐一は行為後に光代にお金を渡そうとする。ちょうどその頃、警察は祐一の存在に気付く。後半は、孤独で不器用な2人の逃避行だ。
ネットなどでこの映画について検索すると、「本当の悪人は誰か」などのフレーズを散見する。祐一が寡黙で不器用になってしまったことには理由がある。幼い頃に母に捨てられたのだ。ならば本当の悪人は誰か。被害者ではあるけれど、祐一を見下しながら利用していた佳乃なのか。あるいは、その佳乃を見下しながら邪険に扱い、結果として事件のきっかけをつくった増尾なのか。
もしもそう主張する人がいるならば、吉田と李の代理として、それは違うと僕は言わねばならない。この作品のタイトルは『悪人』だけど、本当の悪人は1人もいない。
佳乃も増尾も、これまでの成育環境やいくつかの偶然が重なっていなければ、もっと善き人になっていたかもしれない。
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