コラム

中国「ガリウムとゲルマニウム」輸出規制の影響は?

2023年07月12日(水)15時31分

ガリウムはヒ化ガリウム(GaAs)という化合物の形で半導体の材料として使われている。高速信号処理が可能という特性を生かして携帯電話、基地局、衛星通信など高周波(RF)信号を扱うところで活用されている(日清紡マイクロデバイス、2023)。また、赤色発光ダイオードの材料としても利用されている。窒化ガリウム(GaN)は次世代の半導体の材料として注目されている。高速スイッチングが可能で、電力損失が少ないという利点があり、モーターを駆動するパワー半導体や充電器での利用が期待されている。

一方、中国が今回輸出規制を強めるもう一つの鉱物であるゲルマニウムは、むかし電子工作をした経験のある人には懐かしい響きである。ゲルマニウムは融点が低いことから初期の頃の半導体の材料としてトランジスタやダイオードに活用されていた。しかし、熱に弱いという欠点があるため、主要な半導体材料の地位はシリコンにとって代わられた。現在では、赤外線を透過する性質があることから赤外線カメラに使われているほか、将来の半導体材料として再び脚光を浴びているという。

ガリウムはシェア98%

但し、ゲルマニウムにおいては中国のシェアは圧倒的というほどでもない。『環球時報』の記事によれば、ゲルマニウムの埋蔵量はアメリカが世界で最も多くて45%を占め、中国は41%である。過去十年の生産量では中国が世界の68.5%を占めたというが、アメリカは自国資源を保全するため採掘をやめたそうである。アメリカは古い軍用品からゲルマニウムをリサイクルし、それを赤外線カメラや熱センサーなどの軍需品に再利用している(U.S. Geological Survey, 2023)。

アメリカの金属ゲルマニウムの輸入に占める中国の割合は54%(2018~2021年)と高いが、軍需品に用いるゲルマニウムはリサイクルによって自給しているとすれば、中国が輸出規制を強めたところでアメリカの軍事力を削ることはできない。

一方、中国が世界生産の98%を占めるガリウムについては中国が輸出を絞ることで国際価格を引き上げる程度のことはできるかもしれない。しかし、それ以上のことはできないだろう。仮に中国がガリウムの輸出を一切許可しない、あるいは従来の半分ぐらいまでしか許可しないとしてみよう。ガリウムは発光ダイオードなど広範な民生用途に使われているので、安全保障を理由に輸出を全面禁止するのは不当である。もしWTOに訴えられたら中国は負けるだろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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