コラム

再生可能エネルギーの拡大を支える揚水蓄電、日本の能力は世界屈指

2022年10月05日(水)12時28分

要するに、株を安く買い、高く売って儲けるのと同じ原理であるが、それが可能になるには電気を売ったり買ったりする市場がなければならない。中国では発電所と送配電会社とが分離されており、その間で電気が売り買いされている。但し、これまでは、そこでの取引は中長期契約が中心であり、昼間の電気を買って水を汲み上げ、夜間に発電して売るといった取り引きには適さない。だが、近年電気の短期的な売り買いを行う場である「電力スポット市場」が14の地域で試験的に開設されたことにより、蓄電がビジネスとして成り立つ環境が整いつつある。山東省では電力需要者は電気の9割を中長期契約で、1割をスポット市場で購入するというモデルが推進されているという(史丹編、2022;『21世紀経済報道』2022年4月14日)。

そうした状況を踏まえ、昨年(2021年)、中国政府は揚水蓄電の価格の決め方に関する新たな方法を定めた。電力スポット市場が存在する地域では、揚水蓄電会社はスポット市場での電力価格によって電力を購入したり販売したりすると定められた。電力を作り出すのに石炭や天然ガスを燃やさなければならない火力発電所と違って、風力発電や太陽光発電は追加的な電力を生み出すのに燃料も人手も必要としないので、電力が余っている時には極端に安い価格で売っても捨てるよりはましということになる。従って、電力スポット市場に電気を売りに出すのは主に風力発電所や太陽光発電所だと予想され、買うのは揚水蓄電会社などの蓄電企業であろう。こうして市場を通じて、自然由来の電力の不安定性が揚水蓄電会社によって平準化されると期待されるが、実際にうまく行くかどうかは実践してみないとわからない。

一方、電力スポット市場が存在しない地域では、揚水蓄電会社は水の汲み上げに必要な電気を石炭火力発電による電気の基準価格の75%で送配電会社から購入し、揚水蓄電会社が電気を売る時は石炭火力発電の基準価格と同じ価格で送配電会社に売ると定められた。揚水蓄電会社は必ず一定の利ザヤを稼げるようにはなっているが、この仕組みだと揚水蓄電がどれだけ稼働するかは送配電会社によって決められてしまうと思われる。また、中国政府が定めた揚水蓄電の価格にはもう一つの部分がある。揚水蓄電は電力系統全体の周波数や出力の安定、停電時の緊急対応など、電力系統の安定性向上に貢献するので、その貢献に対する報酬を一定の計算式に従って送配電会社から受け取り、送配電会社は電力ユーザーから徴収する送配電価格によって揚水蓄電会社に与えた報酬を回収するという仕組が作られた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ安全保障に欧州主導の平和維持部隊 10カ

ビジネス

米ボストン連銀総裁、FRB利下げ支持も「ぎりぎりの

ビジネス

米NY連銀総裁「FRBは今後の対応態勢整う」、来年

ビジネス

カナダCPI、11月は2.2%上昇で横ばい コアイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 6
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 10
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story