コラム

EVから自動運転へ飛躍する中国の自動車産業

2021年11月11日(木)18時48分

中国のEV産業での注目すべき動きは、IT産業との結びつきが強まっていることである。いま世界で進んでいる自動車産業の大変革の方向は"CASE"、すなわちConnected(ネットワークへの接続)Autonomous(自動運転)Shared(シェア)Electric(電動化)だと言われているが、中国ではこのうちのCとAを合わせて「知能ネット自動車(智能網聯汽車)」と呼んでいる。

2018年12月に工業信息化部が「知能ネット自動車産業発展行動計画」を打ち出すなど、政府もかなり前のめりで取り組んでいるが、自動車産業のみならず、IT産業やインターネット産業などさまざまな産業が"CASE"にかかわってきている。

例えば通信機器大手のファーウェイは2019年に自動車関連事業の担当部署を立ち上げ、ネット接続、自動運転、シート、モーター、クラウドの面から自動車産業を支える事業を始めている。自ら自動車を作るのではなく、パソコンとインテルの関係のように、いわば「ファーウェイ・インサイド」の自動車を作る仕事をしている。

通信機器メーカーが自動車にかかわってくるのは、これからの自動車はさまざまな通信をしながら走ることになるからである。将来の自動車は、信号機や横断歩道といったインフラ、道を行く人々、渋滞情報などを載せたネットワーク、そして他の車と通信をしながら走る。これを総称してV2X(vehicle to everything)というが、これはまさに通信機器メーカーの本領が発揮できる分野である。

「ファーウェイ・インサイド」の実力

V2Xに関して世界では二つの技術標準がある。一つは国際学会のIEEEで決められた「802.11p」というもので、これはWiFi技術の延長として作られた短距離通信規格である。ICメーカーのNXPとネットワーク機器メーカーのシスコシステムズを中心にまとめられた。

もう一つは中国が推進しているC-V2Xというもので、これはLTEや5Gといったスマホで用いられている移動通信のネットワークを自動車にも活用するものである。ファーウェイと大唐電信が中心になって開発と標準化を進めている。LTEはすでに各国で基地局が整備されているし、5Gもいま中国などで急速に整備が進んでいるので、この方式はそうした既存のインフラ設備を活用できるメリットがある。

「ファーウェイ・インサイド」方式で開発された最初のEVが、北京汽車グループの北京藍谷極狐汽車の「極狐(Arcfox)アルファT」である。ファーウェイは、EVが外界を感知するために用いるレーザーレーダー、自動運転を可能にする車載コンピューティングプラットフォームやモーターなどのサプライヤーとしてEV生産を支えた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story