コラム

マイナンバーの活用はインドに学べ

2020年11月27日(金)21時18分

中国では身分証は裏面に姓名、姓、民族、生年月日、住所、および個人番号が印字されており、コピーすることは特に妨げられていないようである。列車のキップをネットで買う時には個人番号を入力し、駅では身分証を機械にかざすことでキップを印字できる。また、ホテルの予約にも活用されている。ホテルにチェックインする時、中国人は身分証を提示し、ホテル側は身分証の個人番号の控えをとる。インドでは個人番号と指紋のスキャンとをメールで送るだけで、銀行の口座開設や送金、携帯電話の契約など、本人確認が必要なことがいろいろできてしまう(岩崎、前掲論文)。

日本人の場合も、特に海外へ行くときにはパスポート番号が役に立つ。たとえば飛行機のチケットはパスポート番号と結びつけられており、空港でパスポートを機械に差し込むと印刷されて出てくる。海外でのホテルや列車の予約もパスポート番号を使って行う。海外のホテルにチェックインすると多くのホテルではパスポートをコピーするであろう。

マイナンバーの利用が民間に開放されていればこんな風にいろいろと役に立つ場面があるはずなのだが、日本ではこれらの一切が禁じられている。

デジタル後進国を脱するには

実にチグハグなことに、日本政府はマイナンバーを民間が使うことを禁止する一方で、マイナンバーカードは民間で使ってほしいようだ。マイナンバーカードにはフェリカ(ICカード)が入っていて、そこに民間のクレジットカード、キャッシュカード、ポイントカードの情報を入れてほしいらしい。そうなれば身分証明にも使えてお金を引き出せるスーパーなカードになる、と考えているようである。だが、裏面をコピーすることが禁止されているようなカードを、「じゃあこれで支払いを」といってお店の人に渡せるだろうか。

特別定額給付金を支給する際にマイナンバーが役に立たなかったことで、日本はデジタル後進国であることを内外に印象付けてしまった。マイナンバーはデジタル化社会の基盤として役立ちうるものである。その潜在的可能性を実現するには、第一に、マイナンバーは「デジタルの名前」だと割り切り、社会で広く活用できるように法律を改めること、第二に、本人確認は書類のコピーで済ませるのではなく、個人の身体的特徴を確認するなど厳格化することが肝要であると思う。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

AI投資ブームは「危険な」段階、ブリッジウォーター

ビジネス

韓国の高麗亜鉛、米で74億ドルの製錬所建設へ トラ

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨

ワールド

政府・日銀、景気認識に「齟齬はない」=片山財務相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story