コラム

中国経済のV字回復は始まっている

2020年04月19日(日)18時58分

建設現場のシフトを終えて帰る労働者たち。マスクを付けていない人も(北京、4月16日) Thomas Peter-REUTERS

<新型コロナ後の中国の1〜3月期の成長率はマイナス6.8%と44年ぶりの落ち込みを記録した。欧米でのコロナ収束はまだ見通せず大きな輸出回復を期待できない中でも、中国経済は既に回復を始めている>

4月17日に、中国の国家統計局は2020年1~3月の経済成長率が前年の同期と比べてマイナス6.8%だったと発表した。中国が前回マイナス成長に陥ったのは、周恩来と毛沢東が相次いで死去して大きな政治的動揺があった1976年以来、実に44年ぶりである。新型コロナウイルス肺炎の流行が中国経済に深い傷跡を残していることが明らかとなった。

これを報じた4月17日のNHKニュースに登場した日本総研のエコノミストは中国経済のV字回復は期待できないと述べ、翌4月18日の『日本経済新聞』も「V字回復の実現は難しそうだ」と書いている。

しかし、国家統計局が今回発表した数字と1か月前に発表した2020年1~2月の統計を比べてみると、中国経済は3月に明らかにV字回復を見せている。日本総研エコノミストと日経記者はもっと統計を詳細に検討すべきであった。

すべての指標が3月に回復

V字回復の様相は、2019年、2020年1~2月、2020年3月の主要な経済指標を示した図から見てとることができる。

marukawachart1.jpg

ここに示したすべての指標が2020年1~2月に急激に落ち込んだのち、3月に回復しており、Vの形に見える。サービス業付加価値と小売売上額の2つはV字というよりも3月になっても回復が鈍いL字に近いが、後にのべるように、これらは4月に入れば回復する可能性が高い。

たしかに、2019年の成長率と同等以上まで回復した指標は輸入額(2019年+1.6%、2020年1~2月―2.4%、3月+2.4%)だけで、他の指標は3月の時点でも依然としてマイナスの領域にある。昨年並み以上まで回復しなければV字回復と認めないというのであれば、たしかに輸入以外にV字回復した指標はない。しかし、もともと2020年は2019年の成長率(6.1%)を下回って5.8%ぐらいになるだろうと予想されていたので、昨年と同等以上まで成長する可能性は仮にコロナ禍がなかったとしても小さかったのである。

図に示した指標のうちGDP成長率のみは私が推計したもので、1~2月はマイナス9.1%、3月マイナス3.0%となっている。もともと中国では1~2月のGDP成長率は発表されないが、鉱工業やサービス業の成長率など他の数字からの推計によってこの結果を得た。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和党、大統領のフィリバスター廃止要求に異例の拒

ワールド

トランプ氏「南アG20に属すべきでない」、今月の首

ワールド

トランプ氏、米中ロで非核化に取り組む可能性に言及 

ワールド

ハマス、人質遺体の返還継続 イスラエル軍のガザ攻撃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story