コラム

中国経済のV字回復は始まっている

2020年04月19日(日)18時58分

産業別にみると、3月の回復が著しいのが鉱工業で、1~2月はマイナス13.5%まで落ちたが、3月はマイナス1.1%まで戻した。鉄鋼、石油化学、ICなどの装置産業はコロナ禍のさなかでもプラス成長を維持する一方、自動車や電子など組立型の産業は工場を閉鎖したので大きなマイナスとなった。だが、電子産業は3月に多くの工場が再開したようでプラス9.9%とV字回復した。一方、自動車産業は3月もまだマイナス22.4%と落ち込んだままである。これは部品がまだ揃わないとか、自動車販売店からの注文が入ってこないといった事情によるものであろう。だが、自動車販売は早晩回復するであろう。

作りだめできないサービス業

一方、サービス業の回復は遅れている。サービス業は生産と消費が同時になされるという特徴があるため、消費が回復しないと生産も回復しない。小売売上高の回復が鈍いことからもわかるように消費は3月にもあまり回復していない。中国国内での新型コロナウイルスへの新規感染者がほぼゼロになったのが3月中旬だったので、3月中に消費が回復しなかったのも当然である。しかし、武漢市の都市封鎖が解かれるなど移動制限が解除された4月にはサービス業や小売も回復するであろう。

実際、4月になってほとんどの地域で昨年並みの経済活動が戻ってきていることは、以前に本コラムで紹介した人々の移動状況に関するビッグデータで確認できる。人々の市内での移動状況を2020年3月29日から4月4日までの一週間と2019年3月17日から3月23日までの一週間とで比較してみると、昨年より人々の移動が少ない地域は89カ所、昨年より移動が増えている地域が274カ所となっている。

武漢市はまだ昨年より人々の移動が63%少なかったし、域外からの人の流入を制限している北京市もマイナス27%だったが、農村地域などではおおむね昨年を上回る人の動きがみられる。各地域の人口の大きさを加味しない単純平均で見ると、昨年より5%余り人の移動が増えている。

今後の中国経済はどうなるであろうか。

2003年のSARSの流行のときは中国経済はまさしくV字回復し、年間を通してみればGDP成長率10%と前年を上回ったが、今回はさすがにそうはいかないだろう。SARSの時は感染者数が5000人余りであったのに対して新型肺炎は8万人以上と格段に多いことに加え、中国経済のサービス化が進んでいることもある。モノの消費であれば、感染が広まっている間は買い控えと作りだめがなされ、終息後にすみやかに挽回することができるが、サービスは作りだめができないため、感染中の買い控えを終息後に挽回できない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、1人負傷 警

ビジネス

24年の独成長率は0.3%に 政府が小幅上方修正=

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、ゴールドマン会長・CEO

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story