コラム

中国は新型肺炎とどう闘ったのか

2020年03月18日(水)15時55分

患者が1人もいなくなった武漢の病院。本当は競技場だ(3月8日) China Daily/REUTERS

<救急外来で順番待ちをする間に死んでいった患者もいたという一時のパニック状態から立ち直り、世界で初めて新型コロナウイルスを制圧しつつある中国の死闘の記録>

習近平国家主席が新型肺炎の感染防止に全力で当たれと指示を出したのが1月20日。それから2週間は患者数が急増し、ピークの2月4日には1日に3887人も患者が増えた。だが、2カ月ほどの激烈な闘いを経て、3月9日以降は中国で新たに見つかる患者数が1日あたり20人を切るほどになった。図は毎日の新規患者数をグラフにしたものである。

marukawachart.jpg

なお、2月12日に急に1万5000人も患者数が増えているのは、湖北省において診断基準の変更があったためである。それまではPCR検査を基準として診断しており、肺炎などの症状はあるがPCR検査が間に合わなかったり、陽性でない場合は「疑似症例」としていた。しかし、湖北省で疑似症例の患者が急速に増えてしまい、PCR検査の能力が追い付かなくなった。PCR検査の結果を待っていては適切な治療が施せないので、新型肺炎と診断する基準としてCT画像などによる臨床診断も加えたのである。そのため、それ以前は「疑似症例」となっていた人たちの多くが患者と認定された。事態がだいぶ落ち着いてきた2月21日には再びPCR検査を基準とする診断方法に戻された。

ピーク時には5万8000人を超えていた患者数も3月17日の時点では9000人を切るまでとなった。新型肺炎の完全制圧が近づいてきているといえるだろう。

パニックによる医療崩壊

いまヨーロッパとアメリカで新型肺炎が急速に蔓延していることでも示されているように、この病気は感染力が強く、致死率もインフルエンザよりはるかに高い。中国では3月16日時点で累計の患者数が8万881人、累計の死者数が3226人で、致死率は4.0%である。

新型肺炎の流行が始まった湖北省武漢市では、1月23日に唐突に公共交通機関が止められ、市からの出入りもできなくなった。本コラムで以前報告したように、武漢市民はこれでパニックに陥った。病院の発熱外来に大勢の人が押しかけ、そのことによってかえって感染が広がった可能性が高い。

医療従事者の間にも感染が広がった。2月11日までに新型肺炎に感染した医療従事者は全国で1716人だったが、そのうち87.5%が湖北省の医療従事者であった。そのなかには、昨年12月30日に「武漢の華南海鮮市場でSARSが発生している」という情報を医者仲間にSNSで伝えたがために、警察に呼ばれて「デマを流すな」と厳重注意を受けた李文亮医師もいる。眼科医だった彼は、1月6日に診察した緑内障患者から新型肺炎に感染し、2日後に発病、1月16日には呼吸困難に陥り、2月7日に亡くなった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏米到着、米欧との連携がロシアに和平迫

ワールド

ボリビア大統領選、中道派パス氏が首位 左派は敗北へ

ワールド

ケネディ米厚生長官、2028年大統領選への出馬を否

ビジネス

米産業用機械メーカーが苦境に、関税コストの顧客への
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story