コラム

日本の電子マネーが束になってもかなわない、中国スマホ・マネーの規模と利便性

2017年09月29日(金)08時10分

Alipayは9月1日、KFCの杭州店で顔認識による決済システム「スマイル・トゥ・ペイ」をテスト開始した REUTERS

<かつて「おサイフケータイ」で世界の最先端を走っていた日本でキャッシュレス支払いが低迷し、その間に中国のスマホ・マネー市場が1000兆円まで爆発的な成長を遂げたのはなぜなのか>

今年8月に北京で同僚と鍋屋で食事をしたとき、ウェイターにお会計を頼んだら、「テーブルに貼ってあるQRコードをスマホで読み込んで支払ってください」と言われた。スマホのカメラをQRコードに向けると、鍋屋のホームページが立ち上がり、食事した金額が表示される。画面に現れた「支払う」というボタンを押すと、スマホ・マネーの支付宝(Alipay)か微信支付(WeChat Pay)のどちらかを通じて代金が店に支払われる。

スマホ・マネーの普及

こういう仕組みが中国のレストランやカフェに登場したのはごく最近のことだ。私が初めて見たのは今年3月、深センの「3W Coffee」というベンチャー支援施設を兼ねたカフェであった。さすが中国の最先端を行く深センだと思って、写真にとって講演のネタとして使ったりした。ところが、その後半年も経たないうちに、普通の鍋屋にまでキャッシュレスでの支払いシステムが普及しているのである。

marukawa-coffee.jpg
深センのカフェのテーブルにあったQRコード。これを読み取ることで注文と支払いができる Tomoo Marukawa

いまや北京のコンビニではスマホ・マネーで支払う人が半数以上である。屋台の店にもQRコードが貼られていて、それをスマホで読みこめばキャッシュレスで買い物ができる。現金を入れる穴がない、スマホ・マネー専用の飲料や菓子の自動販売機が現れたし、スマホ・マネーで買い物できる無人コンビニも登場した。

marukawa-kudamonoya.jpg
果物屋の店先に貼り出された支付宝と微信支付のQRコード。自分が利用しているほうのスマホ・マネーのQRコードを読み込めばいい Tomoo Marukawa

この1年の間に、あれよあれよという間に中国でキャッシュレス化が進んでいる。スマホに支付宝か微信支付のアプリをダウンロードしてスマホ・マネーの口座を作る。それを銀行口座と結び付けておき、あらかじめそこにお金を入れておく。店先のQRコードをスマホのカメラで読み取るか、または自分のスマホの画面にQRコードを表示し、店員にコードリーダーで読み取ってもらえば、自分のスマホ・マネー口座から相手のスマホ・マネー口座にお金が移転する仕組みである。

marukwa-pay.jpg
スマホで果物屋の代金を支払っているところ Tomoo Marukawa

中国ではスマホ・マネーが急速に普及し、それを前提とする新サービスが次々と現れている。携帯電話・スマホをお金として使う仕組みの導入では日本がはるかに先行していたのに、気づいてみたら周回遅れである。

日本で「おサイフケータイ」が始まったのは2004年。そのころの中国の携帯電話には一回の操作で1元を送金する機能しかなかった。日本の携帯電話は、おサイフ代わりに使えるし、テレビ放送も見られるし(ワンセグ)、音楽もダウンロードできる(着うたフル)ということで、世界最先端の機能を持っていたのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界インフレ動向はまちまち、関税の影響にばらつき=

ビジネス

FRB、入手可能な情報に基づき政策を判断=シカゴ連

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story