コラム

家具のニトリがユニクロを凌駕するアパレルの雄に?

2017年02月10日(金)06時30分

アパレル業界においては、苦戦しているとは言えユニクロがこのSTP戦略を採用して好業績を謳歌してきた。先進的な「製造物流小売業」SPAビジネスモデルを駆使してニトリがアパレル事業の展開を行った場合、ある程度の時間は要するだろうが、ユニクロをも凌駕するような価値を消費者に提供する可能性は大きいものと考えられる。

なお、SPAとは元々はアパレル製造小売の略称であり、アパレル業界に端を発するビジネスモデルである。ホームファニシング部門では既に衣料品も取り扱ってきているニトリのSPAビジネスモデルのアパレル展開に対する適用可能性は高いと見て差し支えあるまい。

(3)「お、ねだん以上。ニトリ」のブランド・イメージ

TVコマーシャルでも有名なニトリの「お、ねだん以上。ニトリ」のブランド・メッセージは、日経BPコンサルティングによる「企業メッセージ調査2013」においてトップの認知度を獲得している。ユニクロがベーシック・カジュアルの分野において「安くて良い商品」というブランディングを展開してきた一方、2015年に実施した値上げ戦略の失敗から売上や客数を落としてきているのと対照的である。

ユニクロでは、昨年よりこのブランド・イメージを回復するために低価格戦略を実行しているが、足元においては前年対比の数字で、2016年12月:既存店売上95.0%、客数96.0%。2017年1月:既存店売上97.5%、客数94.6%にとどまっている。

このようななかでニトリが「お、ねだん以上。」のブランド・イメージで、先進的な「製造物流小売業」SPAビジネスモデルを武器としてベーシック商品の分野でアパレルに進出した場合、ユニクロからマーケットシェアを奪うことも十分に可能だろう。

実際にユニクロのSTP戦略と消費者のイメージとの間でズレが生じているなかで、この分野には新たなプレイヤーの登場が待たれるところである。理論的かつ実践的な経営者としても知られている似鳥会長が、自社の強みも生かせるこの分野に果敢に攻め込む可能性は高いのではないだろうか。

【参考記事】日本企業は昔のパンパースと同じ間違いを犯している

そもそも縮小する家具業界で増収増益を続けてきた

アパレル業界は、消費者の「服離れ」が加速し、ブランドや店舗の淘汰が続いている状況である。ワールドやTSIホールディングスによる大規模な店舗閉鎖やリストラはまだ記憶に新しいところだろう。

万人に受けるような大きな流行はもはや到来しないと業界では言われているなかで、生活様式に根差したベーシックな商品には底堅さがある。もっとも、だからこそ、この分野には「安くて良い商品」を消費者に提供するだけの競争優位性が求められるのだ。

もちろん、実際にニトリがアパレルに進出するとなると、アパレル事業用の優秀な人材の確保など追加的に必要となるものもあるだろう。しかし、ニトリはそもそも縮小する家具業界のなかにおいて上場以来29期もの間、増収増益を続けてきた。その間にも様々な困難や障害を数多く克服してきているはずだ。それでもいまだにベンチャースピリットを失うことなく新たな事業に果敢に挑戦しようとする姿は、アパレル業界のみならず小売業界や日本全体にも大きな刺激を与えるものになることを期待したい。

【参考記事】東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story