コラム

家具のニトリがユニクロを凌駕するアパレルの雄に?

2017年02月10日(金)06時30分

ニトリの強みとアパレルへの適用可能性

それでは、ニトリが現在の事業において構築してきた強みとはどのようなものなのであろうか。そして、その強みは異業種であるアパレル事業の展開にも適用可能なものなのであろうか。

筆者としては、ニトリが本腰を入れてアパレル事業に取り組んでいけば、十分に勝算があるものと分析・評価している。ここでは3点に絞って見ていくことにしよう。

(1)SPAのビジネスモデル

ニトリは、「製造物流小売業」であることを自らのHP等で宣言している。これは、SPAと呼ばれる「製造小売」のビジネスモデルを意識して自称していることは明白である。

SPAとは、自ら企画製造した商品を自ら運営する店舗で直接消費者に販売するビジネスモデルである。国内アパレル業界ではユニクロのファーストリテイリングがSPAの代表的な企業ではあるが、同社でも実際には製造と物流は外部委託であり、世界的に見ても実際にバリューチェーンの主要項目を自社で一貫して行っている企業は珍しい。特に物流まで自社内で構築してきたことは、小売業においてEC販売との連動も重要となってきているなかでニトリの大きな強みである。

ニトリの「製造物流小売業」SPAビジネスモデルの競争優位性は、その収益構造を見るとさらに明らかとなる。ニトリの直近期における主要な収益率を見ると(比較のため、括弧内は大塚家具の収益率)、売上高粗利益率53.2%(53.1%)、営業利益率15.9%(0.7%)となっている。

営業利益率が15.9%となっているのは、家具専門小売業はもとより小売業全体で見ても驚異的な利益率であり、ファーストリテイリングの7.1%を倍以上も上回る数字である。これは、製造・物流・販売を自社で行い、徹底的な経営管理によって高付加価値と低コストを同時に実現していることによるものであると評価される。

(2)ベーシック商品を対象とするSTP戦略

ニトリのマーケティング戦略については、ターゲット層は特に設定せずに幅広い消費者を対象としていると指摘されることが多い。もっとも、マーケティング戦略から同社のセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング戦略(STP戦略)を読み解くと、「ベーシックな商品をよりお得な価格で購入したい」という消費者層を対象にしたものと評価することができる。

実際に、ニトリの商品構成は通常の家具専門小売と比較すると圧倒的に家具よりはホームファニシングと呼ばれる商品が多いことが特徴である。毛布、カーテン、布団カバーなどの衣料系ホームファニシングは、家具と比較すると購買頻度が高く生活必需品的性格を強くもっている。さらにニトリでは、品揃えにはこだわっている一方でトレンドにはあまり左右されないベーシックな商品であることを優先した商品展開を行っている。

ベーシックな売れ筋商品を中心とした商品展開を先進的な「製造物流小売業」SPAビジネスモデルで回転させているのがニトリの強みなのだ。実際にニトリは家具専門小売のなかにおいて、業界平均値の2~3倍にも及ぶ6.6回転という高速の商品回転率を誇っている。

このようなことから、もしニトリがアパレルチェーンに進出するとしたら、既存事業において培ってきたベーシック商品をSTP戦略とする商品展開を行うと考えるのが自然だろう。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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