コラム

通学路の交通事故がなくならないのはなぜか?

2022年03月18日(金)17時40分

過去を振り返ると安全対策は都度行われているようにも思える。それにもかかわらず、なぜ通学路で事故が起きるのか。

調べているうちにその理由の一つが分かってきた。事故が起こり、国からの要請がなければ、通学路の安全点検が合同で実施されていないということだ。

ある兵庫県の市立小学校の元校長によると「国からの一斉点検の要請があった時に、安全点検をしたり、対策をしたりするのが一般的ではないか」と話す。「事故待ちの状況だ」と市役所の中で疑問を抱く職員も少なくない。

定期的に点検する組織や仕組みがない

通学路の問題は子供と学校だけのものではない。保護者や地域住民、信号機や交通ルールを管理する警察。道路は、国道・県道・市道・農道・私道など細かく分かれ、国や都道府県、市町村の建設部などが担当している。通学路は交通量の多い県道と住宅街に敷かれた市道が組み合わさってできている。

また、市町村・学校・警察・道路管理者で合同点検や対策を検討しようにも、県と市の道路管理者の連携がとれていないことも少なくない。

八街市の事故を受けた合同点検は霞ヶ関からトップダウンの要請があったため、文部科学省・国土交通省・警察庁が合同で行ったが、日頃から点検を実施する組織や仕組みが自治体にはほとんどない。

「コンクリートから人へ」──2009年に政権交代を果たした民主党の掲げたスローガンにより、世の中のインフラ整備への抵抗は強まった。こうした時代背景から、道路整備に対する予算は年々削られている。道路舗装は10年に1度実施するのが望ましいが、何十年も再舗装されていない道路も多い。

また市町村合併で管轄範囲が広域になり、地域の代表者からあがってくる要望が未対応のまま何年も前から山積みという状況も珍しくない。住民から寄せられる苦情対応にも日々追われている。危ないと感じても事故を起こす自分が悪いと思い込み、我慢している住民も多い。

多忙であまり他の組織・部署と連携のない現場は、柔軟な発想を忘れてしまいがちだ。

道路管理者は「道路を安全なものにしないといけない」という使命から、道路の拡幅や防護柵を設けるなど、ハード整備が中心になる。そのため、予算がなければできることはないと諦めてしまう。すぐに道路の拡幅や歩道を設けることが難しいのであれば、学校・保護者・地域と相談して通学ルートを変更したり、現実的な対策を提案するといった発想も大事だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性排除せず、経済指標次第=米シカゴ連銀

ビジネス

欧州インフレの軟着陸、可能だが確実ではない=IMF

ワールド

中国はロシア防衛産業を支援、安全保障の脅威あおる=

ビジネス

ユーロ圏インフレ率は鈍化の公算、リスクは両面的=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story