コラム

サイバー攻撃の標的となる各組織の「隙」が、ダークウェブの「地下フォーラム」で情報交換されている

2023年11月25日(土)20時05分
ダークウェブのハッカー

Sergey Nivens/Shutterstock

<今年の日本で立て続けに起きた深刻なサイバー攻撃。こうした攻撃による損失から企業を守るために必要な対策とは?>

今年ももう残りあと1カ月ほどになったが、2023年、日本では軽視できないサイバー攻撃がいくつもニュースになった。3月には国土交通省の河川カメラ300台以上が不正アクセスを受けて運用を休止し、6月には全国で使われているガス機器のシステムがサイバー攻撃で暗号化されて使用できなくなった。7月には日本最大級の貿易港である名古屋港のコンテナターミナルでサイバー攻撃によるシステム障害が発生している。東京大学でもサイバー攻撃による情報漏洩が11月に確認されている。

また民間企業に対しては、今年、日本で初めて新手のランサムウェア攻撃が確認されている。従来のように、システムに侵入してデータを暗号化し、復元することを条件に身代金を払わせるのではなく、暗号化はせずにデータだけ窃取して、データを公開しない代わりに金品を要求する。民間企業へのサイバー攻撃は、企業の業績に大きな影響を与える。

とにかくサイバー攻撃は引き続き重要な脅威となっている。そんな状況を踏まえ、今年5月には経済産業省が、サイバー攻撃対策を強化するようガイダンスを取りまとめている。

経産省はそのガイダンスで、サイバー攻撃から自社のIT資産を守るための手法として注目されている「ASM(Attack Surface Management)」をセキュリティ戦略に導入してほしいとアドバイスしている。

サイバー攻撃者が狙う「隙」を埋める作業

ASMとは何か。組織の外部(インターネット)から不正にアクセスできるIT資産を発見し、そこに存在するサイバー攻撃のリスクを継続的に検出して対策に繋げるものだ。要するに、インターネットに接続されたハードウェアやソフトウェアなどに存在する、外部から不正にアクセスされる可能性のある「隙」(攻撃対象領域とも言う)を発見して、その穴を埋める手伝いをする。設定ミスやアップデートされないまま放置されたソフトウェアや機器などがリスクの例である。

日本を含む世界で暗躍するサイバー攻撃者はそうした「隙」を狙って、システムに不正アクセスし、様々なウィルスなどを感染させる。それによって、データが暗号化されてしまったり、システム障害や情報漏洩が起きてしまう。

厄介なのは、攻撃に悪用される可能性があるそうした「隙」は、組織が成長したり、DX(デジタルトランスフォーメーション)などによる新しいビジネスモデルの導入により拡大していく可能性があることだ。サイバー攻撃から身を守るためには、変化する自社のシステムを継続的に監視しておく必要がある。それがASMであり、重要なセキュリティ対策だ。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

べネズエラ沿岸付近に戦闘機5機、国防相が米国を非難

ビジネス

テスラ第3四半期納車が過去最高、米の税控除終了で先

ビジネス

ホンダ、ブラジルの二輪車工場に440億円投資 需要

ビジネス

マクロスコープ:生活賃金の導入、日本企業に広がる 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story