コラム

「偶然」装い、「警戒心」解き、「追従心」を呼び起こす...宮﨑勤の手口は誘拐犯罪で今なお横行している

2025年09月08日(月)19時00分
宮﨑勤事件の連れ去り現場

宮﨑勤事件の連れ去り現場 筆者撮影

<東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件での宮﨑勤の手口は、過去の異常ではなく、「誘拐犯罪の常套手段」として今も使われている>

子供たちが学校に戻る季節になった。かつて、この時期に世間を震撼させた事件がある。「宮﨑勤事件」だ。1988年から翌89年にかけ、埼玉と東京で4人の幼女が誘拐・殺害された。あれから長い年月が経った。しかし今もなお、繰り返される誘拐殺害事件の多くは、この事件の手口に酷似している。

そこで、以下では宮﨑勤事件の最初の手口を取り上げ、東京地方裁判所の判決文と検察官面前調書に基づき、事件を再現してみたい。



暑い夏、地面から熱気が湧き上がるような日だった。

宮﨑勤は埼玉県川越市から東京都青梅市へ向かうため、日産ラングレーを走らせていた。後部座席の窓には焦げ茶色のフィルムが貼られ、車内の様子は外から窺えない。

今日こそ、好みの女の子に出会える──そんな期待を宮﨑は胸に秘めていた。

午後3時、入間市を走行中、急に尿意を覚えた。大きな団地が見えたので、公衆トイレがあると思い、車を停めることにした。団地内の駐車場に車を停め、宮﨑は外に出た。だが、トイレはどこにも見当たらない。仕方がないので木陰に移動し、立ち小便をした。

宮﨑は団地が大好きである。女の子がたくさんいるからだ。歩きながら周囲を見渡し、好みの女の子を探す。それがこの上なく楽しい。興奮を味わうため、スリリングなこともしてみたい。

午後4時、何気なく団地の一角から大通りに出た。すると、目の前を女の子が歩いていた。顔は見えないが、鼓動が激しくなってきた。

後ろからついていくと、女の子が歩道橋の階段を上り始めた。宮﨑はすぐさま道路を横切り、反対側の歩道に移った。歩道橋へ急ぎ、反対側の階段を上る。ちょうど、橋の上ですれ違うようにするのだ。

計算通り、橋の上で、女の子が向こうから近づいてきた。対面した宮﨑は腰をかがめ、笑顔で声をかける。しゃがんだのは、親しみを演出するためだ。

「今日は暑いね。とっても嫌だね。でもね、お兄ちゃん、これから涼しいところに行くんだ。いいだろ?」

女の子は理解できないという顔をした。

「一緒に行く? 今、来た道でいいんだよ。お兄ちゃん、先に行くから、よかったらついてきて。じゃね」

宮﨑はその場を離れ、歩道橋の階段を下りていく。宮﨑が上ってきたのとは反対側の階段だ。女の子は一人、橋の上に残されている。宮﨑は手をつかんで引っ張っていくことはしない。そんなことをすれば、すぐに誘拐犯だと分かってしまうからだ。先に行けば、悪人には見えないだろう。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

今年の米社債発行、AIハイパースケーラーけん引し大

ビジネス

日経平均は小幅続落で寄り付く、過熱感を意識

ワールド

ウクライナ、ロ攻撃でエネルギー問題深刻化 NATO

ビジネス

ECBは当面金利据え置き、FRB巡る問題がリスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑について野次られ「中指を立てる」!
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 8
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 9
    母親「やり直しが必要かも」...「予想外の姿」で生ま…
  • 10
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 9
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story