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「危ない人」は無理でも「危ない場所」なら対策できる──地域安全マップで身に付く防犯知識

「危ない人」は見ただけでは分からないが、「危ない場所」なら探すことができる(写真はイメージです) Asobinin-iStock
<学生の実習用教材として考案された地域安全マップが、防犯対策のスタンダードとして定着するまで>
筆者が考案した「地域安全マップ」は、今年20歳を迎える。2002年9月9日、広島県三原市で実施されたプロジェクトが、地域安全マップづくりの第1号だった。
地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を風景写真を使って解説した地図である。具体的に言えば、(だれもが/犯人も)「入りやすい場所」と(だれからも/犯行が)「見えにくい場所」を洗い出したものが地域安全マップだ(写真)。
1970年代から80年代にかけて欧米諸国で起きた「事後(刑罰)から事前(予防)へ」「人から場所へ」というパラダイムシフト(発想の転換)を、日本でも起こしたく開発したのが地域安全マップである。
欧米諸国では、それまで、「人」が抱える原因に注目する「犯罪原因論」が主流だった。そのため、ロボトミー(脳の前頭葉を切除する)手術が流行し、その考案者であるリスボン大学のエガス・モニスにノーベル賞が贈られる始末だった。しかし、「場所」を対象とする「犯罪機会論」が新興し、防犯対策の主役の座を奪い取ったのである。
同様に日本でも、動機や性格など、予防につながらない議論に終始する「犯罪原因論」の呪縛を解き、処方箋を書ける「犯罪機会論」を普及させたかった。そのため、見ただけでは分からない「危ない人」を探すのではなく、見ただけで分かる「危ない場所」を探す地域安全マップを考え出したのである。
もっとも、正直に言うなら、最初からこうした崇高な理念があったわけではない。ゲームチェンジャーを目指したというのは後付けである。つまり、地域安全マップの発明は偶然の産物だった。
大学生の実習用教材からスタート
最初の地域安全マップづくりは、三原市で立正大学文学部社会学科の必修科目「社会調査実習」として、大学3年生31名によって行われた。
立正大学の「社会調査実習」では、従来、アンケート調査が一般的であり、私の実習クラスでも、前年の01年には、高校を訪問し、生徒を対象にアンケートを行っていた。しかし、その調査は、犯罪機会論が反映された調査ではなかった。アンケート調査では犯罪機会論を前面に出せないことも明らかになった。
実習クラスの学生は、講義を通して、犯罪機会論をせっかく学んでいるのだから、学生が主体的に取り組む実習でも、犯罪機会論を実践させたいと思っていた。そこで思いついたのが、地域安全マップである。学生は、どのような特徴がある場所で犯罪が起きやすいのかを学んでいたので、今度は、自分自身の力で、そのような場所を発見させようと考えたのだ。
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