コラム

犯罪率は低くても、閉鎖性と同調圧力が引き起こす悪事は絶えない日本

2022年06月20日(月)11時25分

そもそも、いじめや集団非行の発端が「うち」集団の維持強化にあることも多い。本当は、集団スポーツや集団演奏でもよかったのに(高校野球の声出し練習も団結力の強化策)、そういう機会がなかったために、いじめや集団非行に走ったのかもしれない。

体罰も同じだ。同調圧力が強いから、教師も子どもも「こんな指導は非科学的だ」「暴力は許されない」とは言えないのである。


komiya220617_3.jpg

いじめや体罰がエスカレートするのは「うち」集団の同調圧力のせいである(写真はイメージです) Yue_-iStock

このように、「うち」世界では、集団への同調が優先される。メンバーは批判や告発することに消極的であり、隠ぺいすることに積極的である。コンプライアンス(法令順守)のためにチクれば、集団の「和」を乱したとして、村八分にされる危険性が高いからだ。

そう考えると、公的には日本の犯罪率は海外に比べて低いものの、それは「よそ」世界の数字であって、被害届が出されず、したがって認知されない「うち」世界の犯罪を加えれば、犯罪率は、日本と海外で変わらないのかもしれない。

かつては、「うち」集団のルールが、何重もの入れ子構造によって、大きな「うち」である日本のルールに近づき、その結果、集団のルールと普遍的なルールの共通点も多かった。しかし今では、細分化した極小の「うち」集団が乱立し、互いに干渉しなければ交流もしないようになった。しかもそれらを束ね、大きな「うち」である日本のルールにつなげる力も弱まっている。例えて言うと、島と島を結んでいた橋がなくなり、点在する小島が孤立を深めているのだ。

さらに、「うち」集団の縮小化は、SNSによって加速している。こうした縮小化が極限に達すれば、西洋的な「個人」が増えて、同調圧力も弱まるかもしれない。しかし今はまだ、「自粛警察」に見られるように、「うち」集団は健在なようである。

かつて「同調性」は日本の高度経済成長を可能にした。しかし、これからの日本にとって必要なのは「協調性」である。イノベーションを可能にする「多様性」は、「協調性」とは共存できるが、「同調性」とは共存できないのだから。

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ブラジルのコーヒー豆輸出、10月は前年比20.4%

ビジネス

リーガルテック投資に新たな波、AIブームで資金調達

ワールド

ナイジェリアでジェノサイド「起きていない」、アフリ

ワールド

世界で新たに数百万人が食糧危機に直面、国連機関が支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story