コラム

ウィキリークス創設者アサンジは「真実の追求者」か「目立ちたがり屋」か

2019年04月15日(月)15時00分

4月11日、アサンジの釈放を求めて記者会見を行ったウィキリークス幹部 Hannah McKay-REUTERS

<先週、在英エクアドル大使館で逮捕されたとき、アサンジに対する扱いは、2012年8月にエクアドルが彼を「英雄」として受け入れたときとは比べ物にならないほど悪化していた。メディアの世界でも、アサンジに対する評価は急降下中だ>

4月11日、内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者で、在英エクアドル大使館に7年間籠城してきたジュリアン・アサンジ容疑者(47歳)が大使館内で逮捕された。

アサンジは、2010年、米軍のアフガニスタンやイラク駐留中の大量の機密文書をウィキリークスを通じて公表し、「報道の自由の戦士」として称賛された。その「メガリーク」を大手メディアが大々的に報道し、アサンジは「メディアの寵児」となった。しかし、今や、トレードマークだった白髪のショートカットは姿を消した。長髪を後ろで一つにまとめてひげを生やしたアサンジは、エクアドル大使館から数人の警察関係者らに引きずり出されるようにして外に出され、護送用車両に運び込まれた。

籠城中の数年間で、彼を英雄視する風潮は大きく減退したように思える。BBCニュースは逮捕記事の1つに「活動家か、目立ちたがり屋か?」と見出しを付けた。「真実を追求する活動家」なのか、機密書類を公開することで人の命を危険にさらすこともいとわない「目立ちたがり屋」なのか、という問いである。

kobayashiphoto1.jpg
「アサンジ、アメリカに行けば最高5年の刑」 4月12日付け英ガーディアン紙 (筆者撮影)

これまでにも、ウィキリークスやアサンジに対する評価は賛同者と批判者との間で真っ二つに分かれてきたが、今では、賛同者の方に属していた大手メディアの中にも懐疑心が持ち上がっている。いったい、何が起きたのか。

ウィキリークスを称賛していたが

先に「賛同者と批判者」がいると書いたが、筆者自身が前者に入る。『日本人が知らないウィキリークス』(共著、洋泉社、2011年)ではウィキリークスのジャーナリズムを分析し、「情報がさまざまな発信者によって外に出され、編集、分析、論評が行われると同時に、一次情報や編集過程が可視化されて提供されるという新たなジャーナリズム空間は、私たちにとって、より多彩で、かつ知的な刺激に満ちた場所であろう」と締めくくっている。

2010年の夏から秋にかけて、ウィキリークスと大手メディアの共同作業によって駐留米軍のアフガニスタン紛争関連資料約7万7000件、イラク戦争関連資料約40万件、さらに米外交公電約25万件が公開されると、その規模の大きさ、世界最強の国アメリカに泡を吹かせたことへの小気味よさ、「真実」に一歩近づいたことに興奮を感じた人は少なくないだろう。

政府は国民のために存在しており、政府の公的書類を国民に戻すのは、あってしかるべき行為という主張にも、一定の説得力があった。

しかし、ウィキリークスを主導するアサンジの行動が、リーク記事を報道してきた大手メディア側や筆者自身にも若干の不安の種を巻いてゆく。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story