コラム

自民大敗、でも石破続投......なら、次の政局はいつ、どんな形で訪れるのか?

2024年10月29日(火)10時31分

53・85%という低投票率で「風」が吹いた理由

第二に、いわゆる「裏金問題」に関与した議員に対する「扱い」という点だ。裏金問題に関与したとされた議員のうち今回の選挙に立候補した自民党議員は44人。公認を得られず無所属で立候補した議員が10人、公認を得て小選挙区で立候補したが比例重複立候補は認められなかった議員が34人だ。非公認の立候補者10人のうち、萩生田光一元経産相(東京24区)、平沢勝栄元復興相(東京17区)、西村康稔元経産相(兵庫9区)の3氏を除く7人が落選したが、7人は全員旧安倍派(清和会)に所属していた。公認を得たが比例重複は認められなかった候補者のうち落選したのは20人(59%)だが、武田良太元総務相(福岡11区=旧二階派)を除く19人が所属していたのも旧安倍派(清和会)だ。比例重複さえ出来ていたら議席を維持できたはずの落選議員は多い。

派閥パーティー券裏金疑惑を受けて昨年12月、当時の岸田文雄首相は旧安倍派所属の閣僚一斉更迭に踏み切ったが、そうした「安倍派パージ」の着地点の一つが今回の選挙結果に現れた面がある。今回の公認決定を巡る禍根は今後、自民党内の権力闘争の火種になる可能性があるだろう。

第三に、政治改革、特に「政治とカネ」を巡って、政治不信に端を発した「議会政治の弱体化」が顕著になったという点だ。派閥パーティー券裏金疑惑はもっぱら自民党派閥の問題だったが、政党から議員に支給される政策活動費の廃止あるいは透明化、政治資金監査の第三者機関設置、旧文通費(調査研究広報滞在費)の透明性確保あるいは経費処理化(渡し切りの廃止)、企業団体献金の禁止あるいは適正化(政党支部への寄付禁止または規制強化等)は、各政党共通の課題でもある。

しかし、通常国会で成立した改正政治資金規正法は不十分なものだった。にもかかわらず再改正のための議論は、一向に深まらず、そのまま総選挙に突入した感がある。総裁選で高市早苗候補を推した自民党員・有権者による投票忌避もあったかもしれないが、課題を迅速に解決できない政治、問題を先送りにする議会政治そのものに対する有権者の失望こそが、53・85%という今回の投票率(小選挙区投票率)に現れていると言えるだろう。政権交代が起きた2009年総選挙の投票率は69.28%だった。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英住宅売却希望価格、6月として14年ぶりの大幅下落

ワールド

インドのモディ首相、キプロス訪問 貿易回廊構想の実

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story