コラム

学習障害で心を閉ざした過去も...英国の「異色のビジネス相」はイギリス経済の救世主になれるか

2025年10月03日(金)16時56分

海岸でアイスクリームを売り歩いたこともある。重たいクーラーボックスを引きずりながら「アイスクリームはいかが」と売っていると、女性は「ティーはある」と尋ねた。それからアイスクリームとティーを売るようになった。これがカイル氏の起業精神の原点だ。

「自分がバカだと思ったことは一度もない。ただ何かがおかしいって感じていた」というカイル氏に転機が訪れる。18歳、地元に本社を置いていた化粧品メーカー「ザ・ボディショップ」との出会いだった。何度応募しても落とされたが、受付に居座り、ついに採用された。

25万ポンドの「二重払い」という失敗の経験

最初に与えられた仕事は購買台帳係。請求書処理に追われていたある日、25万ポンドの二重払いを引き起こしてしまう。普通なら即解雇だが、創業者のゴードン・ロディック、アニータ夫妻は「もう二度と同じ過ちはしないだろう」と逆にカイル氏を支援する。

先駆的に企業の社会的責任を実践していたアニータはカイル氏に公の場でスピーチをさせ、大学進学を強く後押しした。25歳で大学の門を叩いた。夜はボディーショップで働き、地域開発で博士号を取得した。

型破りで奔放なアニータから学んだのは革新的なアイデアと価値観を核にしたマネジメントの力だ。

カイル氏は自分と同じようにディスレクシアやニューロダイバーシティに苦しむ人たちと話す機会が多い。「ちょっとしたアドバイスをすれば、それを克服したり、回避したりできる。つまり、それが人々の生活における主要な問題ではないと思えるようになる」という。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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