コラム

生活に苦しみ、移民に反発する「庶民」が熱狂...マリーヌ・ルペン「国民連合」が再・旋風を起こすフランスの今

2024年03月05日(火)19時16分

ルペン氏「多様性というEUのモットーは国家健忘症だ」

ノンエリートの怒りは弱い立場の移民へと誘導される。「フランスの小さな村の隅々まで押し付けられた大量の移民によって、私たちのアイデンティティーは損なわれている。教育・住宅・医療など社会のあらゆるところで足場を固めつつあるイスラム主義の圧力にひれ伏した」

「毎年何千人もの才能ある若いフランス人が祖国では希望や充実感を見出せず、他国へと去っていく。EUの多様性の中の多様性の連合というモットーは国家健忘症だ」。ルペン氏が祖国の偉大な物語を復活させようと呼びかけると、約8000人の支持者は高揚した。

環境規制・食品インフレ抑制・エネルギー転換による農家の負担増、失業保険給付期間の短縮、対国内総生産(GDP)比で110%を超える政府債務残高。「35年にガソリン車とディーゼル車の新車販売は禁止される。政府は4万5000ユーロを出して電気自動車を買えと言い放った」

「マクロンが政権に就いて以来、ガス料金は80%以上、電気料金は45%も上昇した。国というものは生き物のようなものでエネルギーを奪われれば、枯れ果て非生産的になる。硬直化したテクノクラシーから祖国と欧州を救い出したいのであれば、政治を再生させる必要がある」

若き党首「フランスは復活し、欧州は再び生き返る」

「フランスを信じなくなった人々の恥ずべき敗北主義に終止符を打たなければならない」(ルペン氏)。ネオリベラリズム(新自由主義)が広げた格差にノンエリートは喘いでいる。既存政治に見切りをつけ、ナチスドイツを思い起こさせる国家社会主義の劇薬を口にしようとしている。

「EUは私たちの生活に押しつけがましく、しばしば権威主義的なやり方で侵入してきた。マクロン主義者は主権を剥奪しようとしている。保健・外交・税制・国防といった国家権力をEUに移そうとしている。自国の国益に大きく反する政策にノーと言う権利を奪おうとしている」

ルペン氏の反EUレトリックは英国のEU強硬離脱派のそれとダブる。英誌エコノミストの予測では11月の米大統領選を前にトランプ氏は47%対45%でジョー・バイデン現大統領をリードする。欧州でも、米国でも民主主義は危機に瀕している。

ルペン氏の後継者である28歳のジョルダン・バルデラ党首は選挙集会でこう叫んだ。

「フランスに吹く希望の風はイタリア、スウェーデン、ハンガリー、オランダ、オーストリアなど欧州全土に吹いている。6月9日(フランスの欧州議会選投票日)、私たちとともにフランスは復活し、欧州は再び生き返る。共和国万歳、フランス万歳!」

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story