コラム

電撃戦より「ほふく前進」を選んだウクライナ...西側はゼレンスキーの反攻「戦術」を信じてよいのか?

2023年09月26日(火)20時03分

「重要な変数の一つはロシア軍の損失だ。ロシア軍にとって実際にどの程度困難な状況なのかは明確には分かっていない」。ある時点でウラジーミル・プーチン露大統領は再び国民に不人気な動員をかけなければならないだろう。「この決断を遅らせることはロシア軍にとっては深刻な結果をもたらし、ウクライナ軍にとってはプラスになる」という。

地上部隊による反攻が大きな進展を見せない中、ウクライナ軍は13日、ミサイルと無人艇でクリミア半島セヴァストポリのロシア海軍揚陸艦、キロ型潜水艦、港湾インフラを攻撃。22日にもドローンとミサイルでセヴァストポリのロシア海軍黒海艦隊司令部を攻撃した。ミサイルには英仏提供のストームシャドウ(射程250キロメートル)が使用されたとみられる。

「ゼレンスキーには全土の解放以外の選択肢はない」

ウクライナ軍特殊作戦部隊によると、13日の揚陸艦攻撃で62人が死亡し、22日の黒海艦隊司令部への攻撃では艦隊司令官のヴィクトル・ソコロフ提督を含む34人の将校が死亡したという。「飛び道具」を使った攻撃には出撃・兵站拠点のクリミアを叩いて自軍の地上作戦を支援するとともに、黒海経由でのウクライナ穀物輸出ルートの安全を取り戻す狙いがある。

英戦略研究の第一人者、キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログで読者の質問に答え、ウクライナの戦争目的について「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領にはウクライナ全土の解放を目標に掲げる以外の選択肢はない。それが世論の要求だ。いずれにせよプーチンが約束を守るとは信じていない」と指摘している。

「ロシアがウクライナに『(国土の一部を占領されているという)新しい現実』」を受け入れるよう要求している限り、西側はウクライナを支援し続けるしかない。プーチンはドナルド・トランプ前米大統領が来年の米大統領選で返り咲くのを望んでいる。もしそうなればウクライナだけでなく、米国の同盟国も困惑し、米国内も混乱する恐れがある」

「トランプ氏は紛争を『1日で』終わらせると主張しているが、それは無理だ。彼はプーチンと話し合いたいだろう。プーチンはトランプ氏がゼレンスキー氏を完全に見捨て、自分の運を押し上げるのを期待する可能性がある。一方、ウクライナ軍はロシア軍崩壊に頼るわけにはいかない。長期戦の可能性が高いのであれば兵員や弾薬を節約しなければならない」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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