コラム

「最もセクシーな下院議員」が脱落、次の英首相は「対中国最強硬派」か「王子様」か

2022年07月21日(木)20時10分

ボグダナー教授は「EU離脱やジョンソン氏のキャラクター、そしてホラー映画のような見出しが踊る英大衆紙のせいでイギリスは波乱万丈、理解するのが非常に難しいように思われている。しかし欧州の他の民主主義国家より安定していて復元力がある。ジョンソン氏と各後継候補の政策は減税するかどうかを除くと実はそれほど違わない」と解説する。

「対ウクライナ政策は変更されることはない。スコットランド独立を巡る住民投票を2回行わないという方針も変わらない。EUとの関係について細部で多少の違いがあるかもしれないが、原則に変わりはない。エネルギーや食料価格の上昇による生活費の危機という非常に厳しい状況に直面し、生活水準が下がることは回避できない」とボグダナー教授は断言する。

スナク氏「ディズニーの王子さま」

筆者が「本命」視するスナク氏だけが「財源のない無責任な減税を唱えていない」(ボグダナー教授)。それが保守党草の根支持層でスナク氏の人気が低迷している理由の一つである。EU離脱で成長の回復が遅れ、コロナ復興、ウクライナ戦争でエネルギーや食料品の価格が高騰する中、年間インフレ率は実に9.4%に達した。

こんな状況で減税すればインフレに歯止めがかからなくなり、インフレが25%近くになった1970年代の悪夢が再現する。危機的状況の英経済の舵取りを任せられるのは、行き届いたコロナ経済対策で危機を乗り切った政策通のスナク氏しかいない。テリーザ・メイ首相(当時)に首席補佐官として仕えたギャビン・バーウェル上院議員は2月、筆者にこう答えている。

「スナク氏は急速な出世を遂げた。とても印象に残る政治家だ。コミュニケーション能力も高く、効果がある。思慮深く、メディアに出る前にきちんと説明を受けている。イギリスはインフレや生活費の上昇という困難に直面しているが、コロナ危機では休業補償を打ち出し、政策的に大きな成功を収めた。明らかに才能があり、将来のリーダーになる可能性がある」

「彼は急成長している。もし彼がすぐにでもトップの座に就くとしたら、それは非常に急速な出世となる。明らかに彼にはその才能がある」と絶賛した。しかし保守党党首選では「イギリスらしさ」も問われる。彗星のごとく政界に現れたスナク氏は「ディズニーの王子さま」とも呼ばれる。何も食べずに仕事に没頭しているというエピソードすらある。

スナク氏はインド系移民の家庭に生まれ、育った。妻はこれまで英国外で納めていた税金をイギリスに納めるようにすると表明したものの、重税を嫌う保守党支持者は「自分の妻はこの国で税金を払っていないのに、私たちには増税か」と疑いの目を向けている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハーバード大に10億ドル損賠求める投稿

ビジネス

米印貿易合意でインド市場急伸、株式・ルピーが大幅高

ビジネス

川崎汽船、通期の純利益予想を上方修正 市場予想上回

ビジネス

日経平均は急反発、史上最高値を更新 好材料重なり安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 7
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 8
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story