コラム

英ジョンソン政権が崩壊の危機...「政界の道化師」の複雑怪奇な「功罪」を振り返る

2022年07月06日(水)11時24分

ジョンソン氏は天性の直感力で「10年政権」に向け政権基盤を盤石にしたはずだった。しかし24歳も若いキャリー夫人(34)に振り回されて「金の壁紙」を使った首相官邸の高額改装費を与党・保守党への政治献金者に肩代わりさせていた疑惑が発覚。結局、ジョンソン氏は11万ポンド(約1787万円)超を返済した。

ホスト国として英グラスゴーでの国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を成功に導いた矢先、保守党元閣僚が報酬を受け取る見返りに業者に便宜を図っていた疑惑が明るみに出ると、元閣僚への処分が自分に波及するのを恐れて、ジョンソン氏は議員懲罰制度を急遽、変更しようとして議会が紛糾、今回と同じように謝罪に追い込まれた。

ルールが適用されない「ボリスの惑星」

コロナ危機で接触制限が行われていたにもかかわらず、ジョンソン氏とキャリー夫人、スナク氏ら最大30人が20年6月19日、首相官邸閣議室で開かれたジョンソン氏自身の56歳の誕生パーティーに参加。キャリー夫人のアイデアで英国旗ユニオンジャックをあしらったケーキが用意されていた。

当時、学校や小売店が再開されるなど最初のロックダウン(都市封鎖)が段階的に解除されていたが、業務上「合理的に必要な場合」を除き、屋内の集まりは禁止されていた。首相官邸では情報漏洩を恐れてアフター5は職場で飲み、コミュニケーションを深める慣習があったとはいえ、コロナの犠牲になった遺族は怒りや憤りを抑えきれなかっただろう。

ロンドン警視庁による捜査を受け、ジョンソン氏とキャリー夫人、スナク氏の3人は今年4月、罰金50ポンドを支払った。現職首相が法律違反で罰せられるのは前代未聞である。コロナ規制に違反したいわゆる「パーティー(飲み会)疑惑」で83人に計126件の罰金が科せられた。

英BBC放送の前政治エディター、ローラ・クエンスバーグ氏によると、ある閣僚は「ボリスの惑星は世界中で最も不思議な場所だ。ルールが一つも適用されないのだ」とこぼした。エゴが強くてクセのある政治家が集まる保守党は求心力を失うと造反が続出し、自滅する歴史を辿ってきた。ジョン・メージャー保守党政権(1990~97年)がまさにそうだった。

筆者は07年からジョンソン氏を取材してきたが、サービス精神は満点。しかし虚飾と言い逃れの人生を送ってきた。英紙タイムズ見習い時代には記事を面白くするため談話をデッチ上げて解雇され、04年にはスペクテイター誌の女性コラムニストとの不倫が発覚、「影の芸術相」を解任された。さらに婚外子の娘がいることも明らかになっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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