コラム

死を覚悟した男と、「暗い絵」を描く子供たち...ウクライナ西部で見た「平和」の現実

2022年06月08日(水)12時04分
ウクライナ西部リビウ

東部戦線から遠く離れたリビウは「平和」そのものように感じられたのだが(筆者撮影)

<戦闘が続く東部地域から遠く離れた西部リビウで目にした避難民たちの生活は、一見すると平穏だが、そこには常に戦争の影が付きまとっていた>

[ウクライナ西部リビウ発]ポーランドの首都ワルシャワから長距離バスで9時間弱、ウクライナ西部リビウに到着した。バス停周辺には避難者の休憩所や簡易レストランがあるものの、太陽がさんさんと照りつけるリビウの街は若者やカップルでにぎわっている。ウクライナ東部でロシア軍との激しい攻防が続いていることがまるでウソのようだ。

人力車をモデルにした着脱式の車イス補助具「JINRIKI QUICK(ジンリキ・クイック)」をウクライナに寄贈するキャラバンのため5月28日~6月6日にかけポーランドのワルシャワやクラクフ、ルブリンを回った筆者はウクライナに転進した。国境で出国の理由を聞かれたものの「プレスだ」と答えるとすんなりウクライナに入ることができた。

バスの乗客はほとんど女性で、子連れの母親も目立った。中には、ロシア軍と戦うためウクライナに残った夫に会いに行く『通い妻』もいるそうだ。

リビウ中心部のホテルで一泊して翌朝、メディアセンターで登録を済ませた。ウクライナ戦争は東部戦線に縮小したため、メディアセンターは閑古鳥が鳴いていた。街で散髪し、眼鏡をつくった。眼鏡店の女性眼鏡技師リラさんは「大学で学びながら眼鏡店で働いています」と笑顔を見せた。理容店の女性もにこやかだ。表通りでは戦争の影は全く感じられなかった。

バスに乗って南へ約20分のストリスキー公園にある国立リビウ工科大学体育館では避難者約320人が暮らしている。500人収容可能で、ピーク時に最大450人が避難していた。「首都キーウや北東部ハルキフ、南東部マリウポリ、東部ドンバスなど全国から逃げてきた人たちが暮らしています」とボランティアのニコラ・ブリッジ准教授(電気通信)は語る。

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簡易ベッドが並べられた体育館(筆者撮影)


「戦争が続いているので多くの人が帰宅できない」

「9つのホールのうち7つが避難所として使われています。まだ戦争が続いているので多くの人がわが家に戻ることができません。ここで働くボランティアは全員学生です」とブリッジ准教授は説明する。英語が堪能な学生アンドリー・ボビラさん(17)に案内してもらうと、昼間というのにホールは薄暗かった。避難者が休息のため電気を消してしまうからだ。

体育館には簡易ベッドが並べられ、ボクシングリングのロープに洗濯物が干されていた。ポーランドには今も約200万人のウクライナ人が避難しているが、その多くが今では一般家庭や長期滞在施設に受け入れられている。リビウの避難所はポーランドで見た短期滞在施設より環境が良いとはお世辞にも言えなかった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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