コラム

「勝利」どころか「戦争」も宣言しなかったプーチン...戦勝記念日に暴かれたロシア軍の実態

2022年05月10日(火)10時57分
対独戦勝記念日のプーチン

対独戦勝記念日のイベントに登場したプーチン(モスクワ、5月9日) Sputnik/Anton Novoderzhkin/Pool via REUTERS

<ロシア兵の遺体を焼くため移動式火葬場が戦場を駆け巡っている──「プーチンの戦争」の実像と、プーチン演説の真意を専門家たちが解き明かす>

[ロンドン発]「大祖国戦争(第二次大戦)」の記憶は国内ではクレムリン支配を、国外では自らの行動を正当化するロシアのカルト的アイデンティティーとして位置付けられている。ウクライナに侵攻したものの、予想外の大苦戦を強いられるウラジーミル・プーチン露大統領は対独戦勝記念日の9日、何を語ったのか。

ウクライナの首都キーウに大軍を進めればウクライナ国民に大歓声で迎えられると信じて疑わなかったプーチン氏は9日に「勝利宣言」を予定していた。しかしキーウを包囲すらできず東・南部戦線に兵力を集中させたものの、「アゾフ大隊」が地下に籠城する南東部マリウポリの製鉄所アゾフスターリも制圧できないまま、この日を迎えた。

消耗した部隊を補強する徴兵や徴集兵との兵役契約、予備役の招集など大量動員をかけるため「特別軍事作戦を戦争に引き上げる」(ベン・ウォレス英国防相)との見方も出ていた。プーチン氏は赤の広場で行われた大祖国戦争勝利77周年記念軍事パレードで「英雄的な軍隊に栄光あれ! ロシアのために! 勝利のために! 万歳!」と声を張り上げた。

その一方で「わが国の軍隊とドンバス民兵は祖国とその未来のために戦っている。将校と兵士を失ったことは、われわれにとって痛恨の極み、遺族と友人にとって取り返しのつかない損失だ。政府、地方公共団体、企業、公的機関は遺族を支援するため全力を尽くす。死傷した兵士の子供たちには特別な支援が与えられる」と犠牲者に報いることを約束した。

「空挺旅団のパレードがなかった。戦闘機はどこに行ったと国民は疑問に思っている」

「祖国への忠誠は彼ら(大祖国戦争を戦った祖先)の後継者である私たちにとってもロシアの独立のための主要な価値であり、信頼できる基盤だ。大祖国戦争でナチズムを粉砕した人々はあらゆる時代の英雄主義の模範を示してくれた」「アメリカとその手先が支援するネオナチやバンデライト(ウクライナ民族主義者)との衝突は避けられない」

「ロシアは侵略に対して先制攻撃を開始した。時宜を得た唯一の正しい決断だった」とウクライナ侵攻を改めて正当化したプーチン氏の演説をロシア専門家はどう受け止めたのか。「ロシアの第二次大戦の記憶はウクライナ侵攻をどう形成したか」と題した英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー(HJS)」のオンライン報告会がこの日開かれた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story