コラム

日本に逃れたウクライナ人の声 「PCR検査は自己負担」「日本円がなければどうなったか」

2022年03月29日(火)20時00分
日本でのウクライナ支援デモ

ロシアのウクライナ侵攻を非難するデモ(東京、3月5日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<ロシアのウクライナ侵攻後、日本に避難した人は200人を超えるが、国際社会の一員として日本政府は彼らが求めていることに耳を傾けるべきだ>

[ロンドン発]キエフ在住の年金生活者ウォロディミル・コーバルさん(64)とロシア出身の妻オルハさん(59)は日本で暮らす娘のオレナさん(40)を頼りに戦火のウクライナを逃れて日本にやって来た。2人は3月8日にキエフから列車に飛び乗った。

「私たちの席は一つしかなく、ポーランドまで計24時間交代して座りました。混み合う車内ではどこからどこへ向かうかを尋ね合う程度でみな言葉少なでした。戦火が迫り、やむなく祖国を後にせざるを得ない事情は聞かなくても分かったからです」

220329kmr_urj02.jpg

ZOOMで筆者のインタビューに応じるウォロディミルさん(左)とオルハさん(筆者がスクリーンショット)

2月24日午前4時ごろ、ウォロディミルさんの自宅からも爆撃音が2回立て続けに聞こえた。しかし本当にロシア軍が攻めて来るとは信じられなかった。キエフ北西のホストメリには空港があるためロシア軍の空輸拠点に選ばれ、集中攻撃が行われた。

ホストメリで暮らす親戚宅では砲撃や爆撃の音が絶えず、完全に破壊された。親戚家族は3週間にわたってロシア軍に拘束されたあと、ベラルーシで解放され、ポーランド経由でエストニアに逃れた。しかし今は、連絡は途絶えている。

すべての橋は破壊された

キエフはウクライナ軍や領土防衛隊によってがっちり守られている。ロシア軍の侵攻を防ぐため、すべての橋はウクライナ軍によって破壊された。

2人がキエフを脱出する当日まで電気や水道は使用でき、近所の食料品店も営業していた。銀行のキャッシュカードやクレジットも使えた。ボランティアがいろいろ助けてくれた。

「でもキエフに近いホストメリやイルピンが陥落し、危険が迫ってきました。逃げ出せるうちに出発しようと3月7日に脱出を決めました」と2人は振り返る。

「昨年からロシア軍がウクライナ国境に展開しているというニュースは知っていました。しかしウラジーミル・プーチン露大統領は演習だと言い続けていました。これはウクライナへの脅しであり、私たちや欧州の人々を思い通りに操ろうとしていると思いました」

「私たちはプーチン氏が本当に軍事侵攻に踏み切るとは思ってもいませんでした。他にも解決策を見つける道はいくつもあるのに、最後の最後の瞬間までプーチン氏がここまで狂っているとは考えもしませんでした」と2人は呆れたように語る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エヌビディアの最先端半導体「中国など他

ビジネス

サハリン2のLNG調達は代替可能、JERAなどの幹

ビジネス

中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予想も下

ビジネス

日産と英モノリス、新車開発加速へ提携延長 AI活用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story