コラム

孫正義氏が米ナスダック再上場を計画する半導体大手アームは「イギリスの国宝」、戦略企業の流出危機に青ざめる英政界

2022年02月10日(木)11時19分

「アームのロンドンでの上場は不可欠だ。戦略的に重要な企業や主要な雇用主の保有は重要で、われわれは歴史的にあまりに無頓着だった」(保守党のアンソニー・ブラウン下院議員)。「わが国は戦略的資産を国内にとどめ、雇用を守る具体的な政策が必要だ」(労働党のデービッド・ザイクナー下院議員)。2人とも地元ケンブリッジ選出の下院議員である。

ボリス・ジョンソン英首相の報道官は「昨年、ロンドンでは記録的なIPO(新規公開株)と民間投資が行われた。企業がロンドンに上場して成長することを支援し、奨励するために懸命に取り組んでいる」と語った。しかしブレグジットで対EU貿易が激減する中、世界的な英テクノロジー企業が米市場に流出という事態になれば衝撃は大きい。

ロンドンはテクノロジー企業の評価が低い

英紙フィナンシャル・タイムズはこんな懸念を伝えている。ロンドン市場は米ナスダック、ニューヨーク市場に比べテクノロジー企業の評価が低いと広く認識される中、クワシ・クワーテン英ビジネス・エネルギー・産業戦略相はアームをロンドン市場に再上場させるよう求める声に直面している。

ダレン・ジョーンズ英下院ビジネス・エネルギー・産業戦略特別委員会委員長は同紙に「SBGがロンドン以外での上場を決定した場合、資金調達をするテクノロジー企業にとってロンドンを最も魅力的な市場にする財務省の取り組みに重大な疑問を投げかける」と懸念を示している。

ロンドン証券取引所ではIPOを活発にするため議決権種類株発行企業の上場を認めるとともに、浮動株比率の下限を25%から10%に引き下げた。「特別買収目的会社(SPAC)」も活用しやすくしたため、昨年ロンドンで上場した企業は海外送金サービス「ワイズ」、出前サービス「デリバルー」など120社以上、168億ポンド(約2兆6千億円)が調達された。

19年の35社、20年の38社を大きく上回ったことからイギリスの「IPO(新規公開株)元年」と呼ばれる。しかしアメリカのインフレ懸念で米連邦準備理事会(FRB)が利上げだけでなく、早い時期に量的引き締め(QT)に転換する見通しが強まったことから、英IPO企業の株価も惨憺たる状況となった。

GAFAMやモデルナが生まれにくい環境

短期利益を求める英市場参加者は株価が上昇するとすぐに売ってしまうため、アメリカのアルファベット(グーグル)やアマゾン、アップル、メタ(フェイスブック)、マイクロソフトといったビッグテック(GAFAM)やmRNAワクチンで一躍有名になった米モデルナのようなバイオテック企業はイギリスでは育ちにくい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は3日続伸、イラン紛争拡大で供給リスク高ま

ビジネス

マクロスコープ:予算年度内成立に現実味、参院自民に

ワールド

カナダ首相が豪州訪問、「ミドルパワー」連携強化へ

ワールド

金価格が5日続伸、中東リスクで安全資産への需要が高
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 5
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 8
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story