コラム

富士通の会計システムが引き起こした英史上最大の冤罪事件 英政府が負担する1570億円の肩代わり求める声も

2022年02月17日(木)07時18分

集団訴訟の和解を受けて刑事事件審査委員会が事件の見直しを始め、これまでに72人の有罪判決が取り消されている。ポストオフィスは1人につき10万ポンド(約1570万円)を上限に補償に応じる方針を明らかにしている。

公共調達の透明化に取り組む英トッセルによると、富士通は13年以降、イギリスでポストオフィスの4億4千万ポンド(約690億円)を含め総額31億ポンド(約4860億円)の公共調達を獲得。今回の冤罪事件で英政府が10億ポンド(約1570億円)を負担したため、英議会で富士通の肩代わりを求める声が上がっている。

これまで富士通は一貫して「裁判におけるすべての決定はポストオフィスによって行われた。証人の選択、証拠の性質、関連文書など、事件のあらゆる側面を決定したのはポストオフィスだった」と主張してきた。公聴会に合わせた筆者の取材に次のように回答した。

「富士通は公聴会が始まったときから協力しており、今後も公聴会を担当するチームを支援することに注力する。公聴会では20年以上も前の複雑な出来事が調査される。富士通は将来に向け重要な教訓を得るため、最大限の透明性のある情報を提供することを約束する」

筆者の取材に応じた元準郵便局長のトーマスさんとウィリアムズさんはいずれも昨年4月に有罪判決を取り消された。

トーマスさんは筆者に「富士通の技術者はシステムの欠陥を知っているべきだった。ポストオフィスはホライゾンを世間の目に触れさせないようにしていた。富士通はもちろん技術者にも大きな問題がある。当時、私は携帯電話も満足に使えなかった。元準郵便局長も知識が足りなかった。技術者はもっと優秀であるべきだった」と語る。

「まだ1ペニーも補償されていない人が500人もいる。私たちは2つの裁判を起こし、いずれも勝訴した。すべての情報が明らかになったのに、政府は公聴会を開くことを決めた。あと1年か2年は続くだろう」と元準郵便局長の救済を急ぐよう求めた。

ウィリアムズさんは富士通の責任について「もし彼らに責任があり、何が起きているかを知りながら何も言わなかったとしたら、私たちが味わった思いを彼らも感じなければならない。刑務所は非常に辛い場所だ。しかし私は刑務所に入るかもしれない立場に置かれていた。刑務所に入るにしても経済的な損失にしても、彼らはこの件について責任を負わなければならない」と語気を強めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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