コラム

「集団免疫」を封印したイギリス 4カ月ぶりにパブの屋外営業再開で忍び寄る南ア株の影

2021年04月13日(火)12時52分

観光客が戻っていないため、今回、屋外営業を再開できたのは、都心から少し離れたブリクストンの1号店だけ。着席での屋内営業が再開される5月17日に向け、「店を開くことにエネルギーをとられていますが、これから1カ月、まだまだ忙しい日が続きます」と表情を引き締めた。

ロンドンの高級住宅街メリルボーンで美容室「アトリエ・セオリー(atelier theory)」を経営する滝井淳さんも「再開準備ですでに疲れていますが、過労死しない程度に体にムチを打って頑張ります」という。

感染は60%激減も、現在は横ばいに

ボリス・ジョンソン英首相が予定通り、レストランやパブの屋外営業再開に踏み切ったのは、都市封鎖やワクチン接種で感染が激減したからだ。インペリアル・カレッジ・ロンドンの調査では、ウイルスに感染している人口割合はイングランド全域で今年2月の0.49%から3月には0.2%まで約60%も減少した。

中でも英変異株のエピセンター(発生源)となったイングランド南東部は0.36%から0.07%に、ロンドンも0.6%から0.16%に大幅に減少した。年齢層でみると、学校が再開された小学校の児童(5~12歳)が0.41%と最も高く、ワクチン接種が済んだ65歳以上は0.09%と最も低かった。

入院や死亡者も劇的に減り、同大学の報告書は「ワクチン接種が効果を上げている可能性がある。しかし、26日ごとに半減していた感染も下げ止まり、現在は横ばいになっているため、決して警戒を緩めてはならない」と釘を刺すのを忘れなかった。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンは感染やワクチン接種によって免疫ができた人が壁になって新たな感染を防ぐ「集団免疫」に4月9日に到達するという予測を出していたが、最新の調査で同月26日に先延ばしした。しかし、イギリスでは「集団免疫」という言葉はタブーになってしまったようだ。

禁句になった「集団免疫」

昨年3月、パトリック・ヴァランス英政府首席科学顧問が感染封じ込めを早々とあきらめ、「集団免疫」という言葉を口にした結果、欧州最大の被害を招いてしまった。「集団免疫」という言葉にはイギリスやスウェーデンの例を出すまでもなく感染症対策を甘くしてしまう落とし穴が潜んでいる。

筆者が暮らすロンドンのランベスや、ワンズワースではワクチンの効果を弱める南アフリカ変異株の症例が44人から確認された。さらに30症例が南ア株の可能性があるという。英政府は市民全員に30分で結果が分かる迅速検査を週2度、自宅で実施するよう呼びかけており、南ア株をあぶり出して隔離する作戦だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story