コラム

ワクチン接種後、自己免疫疾患で急死した産科医の妻の訴え「夫の死を無駄にしないで」【コロナ緊急連載】

2021年01月14日(木)15時50分

ハイディさんは同紙に「夫には何の健康上の問題も基礎疾患もありませんでした。タバコも飲まず、薬も服用していなかった。過去に薬やワクチンに対して反応を起こしたことはありません」と語った。

ITPは自己免疫疾患の一つで、自分の体の免疫システムが血小板を破壊する。血液中の白血球と脾臓は感染症と戦うのを助ける抗体を産出するが、免疫系が過剰に働くと、白血球が本来攻撃してはならない自分の血小板などを破壊し始める。ITPは男性より女性によくみられるという。

ワクチンを大量接種するとこうした自己免疫疾患が起こる可能性を否定できないため、一部の免疫学者はワクチンに対してより慎重な立場を取るようになる。

これまでの研究によると、新三種混合(MMR)ワクチンは接種後6週間以内にITPを発症するリスクが増加する。 ワクチン接種を受けた子供2万5千人に1人が発症するリスクがあるが、大半は自然に治る。

これに対してITPを発症した大人の9割は急性型から慢性型に移行する。

イスラエルの72歳女性は「ベル麻痺」

イスラエルでは72歳の女性がワクチン接種後、顔の筋肉がコントロールできなくなる「ベル麻痺(急性顔面神経麻痺の一種)」を起こした。ファイザーワクチンの臨床試験でもボランティア4人がベル麻痺を発症している。

米食品医薬品局(FDA)は「臨床試験のワクチン接種組で報告されたベル麻痺の頻度は一般集団で予想される発症率と一致しており、因果関係を結論付ける明確な根拠はない」として症例の監視を続けることを勧告している。

マイケルさんの死についてファイザーは関係を否定しているものの、ワクチン接種が免疫系を刺激して自己免疫疾患を引き起こした可能性が強いとみる医療関係者は少なくない。ハイディさんの証言を聞くと他に原因を見出すのが難しいからだ。

ハイディさんには慰めの言葉も見つからないが、私たちは「2946万分の1」の確率とどう向き合えば良いのか。

感染力が最大70%も強い変異株が猛威をふるうイギリスでは、2月中旬までに介護施設の入所者、職員、最前線の医療従事者、70歳以上、ハイリスクの基礎疾患者計1500万人に1回目の接種を終える方針だ。

英政府は変異種の猛威に恐れをなし、本来は3週間置いて2回接種する必要があるファイザーワクチンのプロトコルを変更し、1回目をより多くの人に先行接種するため12週間置いて2回打つ方針に急きょ切り替えた。3週間2回打ちでより高い有効性を達成するより、とにかく死者を抑える必要に迫られたからだ。

しかし英オックスフォード大学のジョン・ベル欽定教授(免疫学)は英紙タイムズにいらだちを打ち明けている。

「理論上、わが国の国民医療サービス(NHS)には5日間ですべての人に免疫を与える能力があるのに、お役所仕事がそれを阻んでいる。世界最速で接種が進むイスラエルのように新型コロナウイルスとの戦いを戦争とみなす必要がある」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story