コラム

滅私奉公がなければ持たない日本の医療現場【コロナ緊急連載】

2021年01月12日(火)12時50分

スタジアムの一部を改装した英NHSのワクチンセンター(ブリストル、1月11日) Matthew Childs-REUTERS

[ロンドン発]「看護師っていうだけで白い目で見られるし、看護だけじゃなく掃除や着替え。もう疲労困憊。嫌なら辞めればと簡単にいう人の気が知れない。給料上げて休眠看護師に復帰してもらうくらいしか解決策ないです。看護師ってだけで普通の暮らしと仕事ができないもの。掃除は看護師の仕事じゃない」

「看護師はじめ医療職が足りないのは、今まで散々追い込んできたからです。勉強や経験も必要な職業なのに教育体制もズサン。給料も大して上がらない。事故が起これば個人の責任にされる。経営陣からは代わりはいくらでもいると言われる」

「介護や看護助手も入れないから、通常業務に加えてシーツ交換や全身清拭におむつ交換。感染対策も一般病院よりしっかりしないと......。しかも病院に入院している人は重症者ばかりだからモニターのアラームにも注意しないと。こうなると労災だよ。生命はお金には代えられないよ」

前回のこのコラムがヤフーに転載されると、看護師とみられる悲痛なコメントが溢れた。

広島大学公衆衛生学の冨岡慎一客員研究員は「看護師を新規で雇うのはなかなか厳しい状況だ。多少なりともインセンティブがあれば辞めないように食い止める可能性はある」と解説する。そもそも看護師が離職するのは出産・育児など家庭の事情がある。

「"あの病院でクラスターが出たよ"とウワサが立てば風評被害で病院経営が深刻な影響を受ける。そのため感染対策に気を遣わざるを得ず、感染防護具の着脱を繰り返す医療従事者の心理的、時間的負担になっている。それで疲弊して辞めてしまう看護師もいる」

「ただでさえ看護師不足の中で新しく看護師を獲得するのは難しい。今回のコロナ危機で病院を辞めた看護師はパートタイムとか診療所に流れていく。そしてコロナの影響で他の疾患でもいったん入院してしまうと面会できなくなるので、患者の中には在宅医療に流れていく者も多く、訪問看護の需要が生まれている」

菅首相「重症者病床1床に2千万円を支援する」


こうした病院の現状を踏まえ菅義偉首相は東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県で緊急事態を宣言した7日の記者会見でこう力説した。

「病床が逼迫する1都3県でコロナ対応の病床を大幅に増やすことができるようにする。新たに対応病床を増やしていただいた場合には1床当たり450万円の補助を従来の支援に上乗せする。重症者の病床であれば1床当たり約2千万円の強力な支援が行われる」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請6週間ぶり低水準、継続受給件数は

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

トランプ減税・歳出法案、下院最終採決へ前進 手続き

ワールド

米EU関税問題、早期解決を メルツ独首相が訴え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story